今日飲み会があるんで遅くなります。ご飯なら冷蔵庫に入ってますからと言って今朝狩屋は出ていった。いつもならバイトが入っていても俺の方が帰りは遅いのに、今日は特に遅いらしい。冷蔵庫にあったのはじゃがいもが不格好な肉じゃがとほうれん草のおひたし、白菜の漬物。炊飯器には朝といだのであろうお米が入っていて、俺が帰るまでに炊けるようタイマーを仕掛けてくれていた。テーブルの上には特売で買ったお湯を注ぐだけの味噌汁もある。いやはや良く出来た嫁だと、本人が聞いたら顔を真っ赤にして抗議しそうなことを思いながら肉じゃがを電子レンジに突っ込んだ。温め五分くらいで良いか。
温めた肉じゃがは出来立てみたいにじゃがいもがとろけて美味かった。やっぱ狩屋って料理上手いよなーとか幸せに浸りながらテレビを流し見して、明日休みだしぐーたらしようかなぁ、酒でも買うかと財布を手に玄関へと向かおうとしたちょうどその時。まだ買ってもいない酒の匂いが玄関からいっぺんに香ってきた。

「狩屋?」

慌てて玄関まで駆け足で辿り着いて。見ればぐったりと頭を下げた狩屋と、若干迷惑そうに、だが困ったように狩屋を支える懐かしい姿。

「つる、ぎ?」
「お久しぶりです、霧野先輩。ほら狩屋着いたぞ、いい加減起きろ」
「…ぅ〜……やだ俺まだいける…帰らない…よ………」

何がまだいけるんだ、明らかに潰れてるじゃないか。剣城は相変わらずのすらりと伸びた俺とそんなに変わらない身長に抱えた狩屋を、嫌そうな、だけど慣れた手付きで玄関に下ろした。

「先輩こいつの保護者ですよね」
「………あぁ、まぁ」
「じゃあ言っておいて下さい。先輩がいるんだからもう俺の世話になるな、って」

それじゃ、呟いて剣城は玄関から消えてしまった。後に残された俺はとりあえず、下手すれば玄関で寝てしまいそうな狩屋をひとまず室内に連れていくかと腕を引っ張った。こいつ絶対眠いんだろ身体重いぞ。つーか

「……お前ずっとあいつの世話になってたわけ?」
「んぁぁ?……つるぎくん、なにしてんの?」
「……俺は剣城じゃない」

俺の言葉が聞こえていないのか、つるぎくんつるぎくん、と呂律が回らないまま狩屋は何度もその名を紡いで胸元に顔を埋めた。お前は普段あれだけ女々しい女々しい言ってるこのピンク髪が見えないのか。むかつく。


……むかつくけど、そりゃそうか、とも思ってしまう。四年。なんだかんだ言ったって四年だ。俺の勝手な都合で四年も放っぽって、狩屋を置いてけぼりにした。一人が嫌いだって、置いていかれるのは嫌いだって、ちゃんと知ってたのに。この四年、狩屋が誰とも関わらないで、誰にも縋らないで生きてきたなんて、そんなわけある筈なくて。そうだよなぁお前、天馬や信助より剣城の方が馬が合いそうだし。
むにゃむにゃと言葉にならない音を発して、俺を剣城と間違えたまま狩屋はぺたぺたと赤子のように触れてくる。それが首筋、うなじの辺りに触れると、へにゃり、弛み切った顔で狩屋はわらった。ああもうそんな顔剣城に見せてたわけ?なんだよすっげーむかつ

「…つるぎくんの」
「だから俺はつるぎじゃ」
「つるぎくんのかみ、……せんぱいのとさわったかんじ、にてる」

ふわりふわり。宙に浮くようなやわらかい声音で狩屋は呟いて、俺の髪を撫でた。せんぱい、とアルコールに溺れたでろでろに甘い声で囁いて目を瞑る。
───むかつく気持ちは何処へやら。俺はなんだか無性に、こいつが可愛くて可愛くてたまらなくなってしまって。まったくどうしたら、どうすれば。おい寝てんじゃねぇよ起きろ部屋ん中で寝ろ、いややっぱ起きんな、いま俺絶対情けない顔してるから。ああ、もう、もう!

「お前もう剣城に頼んな、ばーか」

なんとか零れた俺の言葉は、こいつにちゃんと聞こえただろうか。



【代替品にさようなら】

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匿名様のリクエスト、「同棲蘭マサで霧野が嫉妬する」おはなしでした!
こんなんで大丈夫ですかね……剣城の存在感に私が嫉妬((
お名前がなかったのでフリーにします
リクありがとうございました!