海の底から星を見てみたかったんだ。俺がそう言うと剣城くんは切れ長の目をしばし硬直させ、そこからぐるりと視点を俺に定めた。何言ってんだお前、目だけでそう察知出来る。それでも表面上は笑わないから、俺にはそれがちょっとだけ有難かった。

「見れると思ってたんだよ。昔は」
「……へぇ、意外だな」
「……剣城くんって結構失礼だよね」

俺にだってそういう時期はあったんですー、なんて言えばまだまだ疑わしげな剣城くんの顔。まったく、剣城くんは思考は表に出さないけど、感情は結構わかりやすい方だと思う。
ゴッドエデンとやらは都会と違って星が良く見えた。真上にあるものだけじゃなく、もっともっと向こうの、海の方まで輝いてるやつまで見えた。自然の中では星が良く見えるって、あの人は言ってたっけ。ならきっと海の底からでも見えるんじゃないかと、俺は本気で思ってたんだ。
海が好きだった、水が好きだった。水の中はゆらゆらと、暗くて青くて静かで綺麗で。そんな中で、あの光り輝く星が見えたらどんなに綺麗なことだろう。見てみたかった。それはきっと、この世界でいちばん綺麗な光景なんだろうと俺は思っていた。
でも、今はそう思わない。

「ここから見る星は綺麗だね」

見上げた夜空は剣城くんの髪と同じ色、瞳と同じ星が一面に広がっていて。それはそれは綺麗だった。剣城くんも俺につられて顔を上げてくれる。あ、口の端、ちょっと緩んだ。
剣城くんも星が好きだろうか。だったら良いなぁ、そしたら、そしたら。

「ここも綺麗だけど……俺ね、絶好の天体観測スポット知ってるんだ。今度剣城くんも連れてってあげる」
「……俺を?」
「うん。天馬くんと信助くん、輝くんに空野さんも一緒にね。みんなで見に行こうよ」


星が好きなら、だけど。そうしてくれたら嬉しい。剣城くんは相変わらず、なんで俺がそんなことをするのか、不思議そうな顔をしているんだけど。本当に失礼だなぁ、俺にだってそういう嗜好はあります。


だって、仲間と見る空がいちばん綺麗だって、あの人が教えてくれたから。
だから。


「剣城くん」
「なんだ」
「……行こうね」

約束。俺がそう言えば、剣城くんは何度か瞬きを繰り返して俺を見る。だからさっきから意外そうな反応やめろって、俺はとうとう怒りたくなってきたけど、次にはふっ、と目を細めて。

「……あいつらが行くならな」

わらって、そう言ってくれた。
剣城くんがそんな風に笑ってくれるのは珍しくて、素直じゃん、なんて少しからかいたくなるくらいだ。言ったら俺に同じ台詞が返ってくるのは目に見えてるから言わないけど。
満天の空に約束がひとつ。流れ星に祈りはしなかったけど、この願いはきっと叶う筈だ。



【指先でなぞる幸福】

─────────
善吉さまリクの狩屋+誰か、友情寄りでした!
遅くなってすみません…友情になっているかな、うっかり京マサになってないか心配です;;
こんなので良ければどぞどぞ…!