びっくりした。というのも、放課後にいきなり剣城くんがクラスも違うというのにわざわざうちのとこまで来て、凄く怖い顔で呼び出したから何かと思った。いや違うって、確かに剣城くん元々怖い顔してるけど、なんかそれが更に2割増しで眉間に皺なんか寄せちゃっていやもうほんと俺何かした?まじでまじでちょっと怖いんだけど。
そんな怖い剣城くんに手を引かれて廊下を歩くのは手首痛いわ視線も痛いわ歩きづらいわでもう最悪で。なのに手を振りほどいて逃げなかったのは彼が怖いのも勿論あったけどそれ以前に俺は剣城くんが好きで剣城くんも俺が好きな筈で、つまりお付き合いしている間柄であるものだから、そんな彼がわざわざ俺を連れ出して二人きりになって話したいことに少なからず興味を引かれたからだった。振り向いてこちらを見てくる女子達に対して少しだけ優越感を抱く。ごめんね、この人俺のなんだ。

「狩屋、」

そんなつまらないことを俺が思っている間にも剣城くんはどんどんと歩いていて、辿り着いたのは焼却炉前の閑散とした地面だった。所々生えている雑草がいかにも惨めで寒々しくて、進んでここに来るような奴はゴミ捨て以外にはいないだろう。もっとも今はほとんどのクラスが掃除も終わらせたんだから、もう今日は俺達以外誰も来ないんだろうけど。
離された手は少し残念だったけど、代わりに剣城くんは紺色の背中でなく金の瞳を俺に向けてくれたのでまぁ良しとする。顔が怖いのはもう気にしない。だっていつものことだし。

「どうしたの剣城くん」
「……」

俺の問い掛けにその、なんだ、なんてどもってしまう剣城くんは、表情とは裏腹に正直言ってちょっと可愛い。ますます怖い顔になって、それなのに頬は赤いなんてなんというか、うん、可愛い。情けないんだけど、そういう剣城くんに俺は弱いのだ。しょうがない。
何度かどもって、考え込んで、ようやっと口が開いた時の剣城くんは本当に怖い顔になっていた。怖い顔で、凄く、情けないことを言ってきた。


「………今度の日曜、お前ん家行って良いか?」


…は、と俺は声にならず口の形だけで返事をしてみせる。まさかそれだけ言うためにずっと怖い顔して塞ぎ込んでたの?つーか、俺の家?お日様園のこと?頭にいくつも浮かぶ疑問符は止まることを知らないが剣城くんに聞いたところでまともな返事なんて返って来ないのはわかっていた。耳まで真っ赤にしてる剣城くんを、これ以上追い詰める気はさすがにない。
俺の家に関する事情はとっくの昔に話しているから良いけど、いやだからこそ、どうしてわざわざ。何にも面白いもんなんてない、チビはうるさいしヒロトさん達の好奇の目に晒されるし利点なんてさっぱりないというのに。そう告げたら、それでも構わないと剣城くんは言う。いやいやいや、構わないって。いや剣城くんが来るのはまぁ良いよ、良いけど、でも。

「……ねぇ剣城くん」
「なんだよ」
「来る時はその顔、ちょっとはマシにしろよな」

剣城くんが緊張すればする程顔が怖くなるのはよくわかったけど、そんなんじゃうちのチビ達泣いちゃうからさ。そう言えばやっと気付いたのか、両手で顔をいじる剣城くんは普段のクールさもさっきの怖さも何処へやら、やっぱり情けなくてみっともない。あーあ、そういうのもやめてくれよな。愛想良く、ってのは無理だろうけど、極端に怖い顔やみっともない顔はやめてほしい。
だって、そんな顔の彼氏じゃ、ヒロトさん達にも紹介出来ないんだからさ。



【君は青いな】

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title by 夜途
みやこ氏リクの京マサ、京マサ…?果たしてこれを京マサと呼んで良いのか、こんなヘタレ剣城で良いのか、篠宮は悩んでおります
とりあえず遅れちゃってすみません申し訳ない!いつもありがとうこれからもよろしく、大好きです*