▼ 028
それから更に一カ月後のベルサイユ宮殿
アントワネットはいつまで経ってもベルサイユ宮殿へフェルゼンが来ないことを不思議に思い大使に尋ねた
「スウェーデン大使様。あの・・・フェルゼン伯はこの頃私のサロンへも見えませんが・・・ご病気でもなさっているのでは・・・?」
そんなアントワネットの様子に…
「ほら、また王妃様がフェルゼン伯爵のことを」
「まるでフェルゼン様のことしか頭に無いみたいでいらっしゃる。やっぱり怪しいと思いません?」
「でも、フェルゼン様はエリザベート様とご婚約されていらっしゃるわ!!」
「そしたら王妃様はご親友の婚約者を・・・」
「まぁ!!」
「エリザベート様がお可哀想だわ…」
「えぇ・・・」
「でも、フェルゼン伯はエリザベート様をとても大切になされていらっしゃるわ!!」
夫人達の間でどんどん加速していく噂・・・それに気がつかないアントワネット
そんな中タイミングがいいのか悪いのかフェルゼンはベルサイユへとやってきた
「王妃様、フェルゼン伯がおみえです」
フェルゼン!!あぁ・・・!!やっと来てくれたのね!!
お話ししたいことが山ほどあるわ!!
でも顔を見たらきっと何も言えない・・・
「フェルゼン伯どうなさいまして?カルタの会にもちっともおいでになりませんね。心配したのですよ?」
「王后陛下・・・おそれいります・・・実は婚約をいたしまして。フランスへは婚約者と共にきましたので婚約者と過ごしておりました」
フェルゼンがエリザベートの恋人であったことをすっかり忘れているアントワネットは衝撃を受けた
婚約!?婚約者ですって!?
「そ、そうでしたの…それは…お、おめでとうございます…あ、じゃ…今はお幸せでいらっしゃるのね…あ、相手の方は…あいて・・・の・・・かた・・・は・・・」
「ありがとうございます・・・はい。とても幸せでございます。相手は王后陛下もよくご存知のエリザベート・ミィシェーレ様です」
「エリザベート・・・シシィ・・・!!」
それを聞いたアントワネットはその場から走り去った
婚約・・・いずれは結婚する・・・!!
フェルゼンが・・・フェルゼンがシシィと結婚する・・・!!
あ、当たり前のことだわ・・・シシィと恋人だったじゃない・・・!!
何を驚くことがあって?なにを・・・私が泣くことがあって?
そんなアントワネットの様子を見ていたオスカルはフェルゼンを責める
「フェルゼン!!なぜ言った!!アントワネット様になぜ言った!?」
「ならばオスカルはエリザベートが傷つけばいいというのか!?私にとって大切なのはアントワネット様ではなくエリザベートだ!!アントワネット様の私への思いが強くなればエリザベートが傷つく!!」
「フェルゼン・・・」
「それにエリザベートとの婚約はもう公表されている。宮殿でももう知っている者達だっているのだ、ならばいつ知られても同じだ」
「・・・・・・・・」
「エリザベートが待っているから私はもう行く」
『お帰りなさいフェルゼン』
笑みを浮かべたエリザベートがフェルゼンを出迎える
「エリザベート」
『ばあやとロザリーと一緒にタルトを作ったのよ』
「そうか。楽しみだ」
『ふふ、上手く出来たからきっとフェルゼンも気に入るわ』
準備をして来るわねと前を歩くエリザベートを愛おしそうにフェルゼンは見つめる
エリザベート・・・私の愛おしい青薔薇・・・
君のためならば私はフランスの王后陛下であろうと傷つけよう・・・
君が傷つかないために・・・
私は・・・私はそれ程までに君が愛おしい・・・
紅茶とタルトを用意しフェルゼンの前に置く
『食べてみて?今回のタルトは小さい頃からよくお母様が作ってくださったチーズタルトなの』
静かにフォークを手にとりタルトを口に運ぶフェルゼン
『どうかしら・・・?』
「とても美味しいよ。思ったよりサッパリしていて食べやすい」
『本当に?』
「あぁ」
『よかった・・・』
「そんなに心配だったのか?」
『だってハンスは甘いもの余り好きじゃないでしょう?だからハンスに美味しいって言って貰えるか心配だったのよ?』
「ありがとう。とても美味しいよ」
『ふふ、ありがとう。それに・・・』
「どうかしたのか?」
『ロザリーの元気が今日もなかったのよ・・・だから気分転換も兼ねてタルトを作ったの』
「ロザリーの」
『えぇ・・・今日もシャルロットさんにお会いしたみたいで』
「そうか・・・」
ロザリーを案じるエリザベートをフェルゼンは抱きしめた
夜
オスカルも屋敷に戻りエリザベートに昼間のことを悟られぬようにオスカルとフェルゼンは接する
『ロザリー明日はチョコフロンタンを作りましょうね!』
「はい!!」
エリザベートとの気分転換が良かったのかロザリーも普段の明るさを取り戻していた
「チョコフロンタンか・・・」
『えぇ、ハンスには甘すぎてしまうかもしれないけれど食べてくださる?』
「勿論」
『ふふ、オスカルも楽しみにしていて下さいね?』
「ありがとうございます」
ほのぼのと話しているとそこに慌てた様子でアンドレが部屋に入って来た
「た、大変だ!!わ、わ、わかったんだ!!あ・・・あの女!!マルティーヌ・ガブリエルってポリニャック夫人の名前だったんだよ!!」
『「「「!!!!!」」」』
アンドレの言葉に私たちは衝撃を受けた
だって彼女の名前がそうなのだとしたら
『で、では・・・ポリニャック夫人がロザリーの実母だと言うのですか!!』
「ま、間違いないのかアンドレ・・・」
「間違いなくポリニャック夫人がロザリーの実母だと思われます・・・貴婦人という貴婦人は全部調べあげたのです・・・ですからッ」
泣きながら立ち去ってしまったロザリーを私は追いかけた
『ロザリーッ』
「あぁ・・・そんなッ」
私はベッドに泣き崩れるロザリーに近づいた
『ロザリー泣かないでちょうだい・・・貴女が泣く姿を私は見たくないわ』
「エリザベート様・・・・」
『まさかポリニャック夫人がそうだっただなんて・・・』
ロザリーの実の母親がロザリーを育ててくれたお母様を殺してポリニャック夫人
そしてそのポリニャック夫人はマリーの───
「あぁッ・・・エリザベート様泣かないでくださいッ・・・私エリザベート様方には本当に感謝しているんです・・・オスカル様に拾って頂けて、エリザベート様に色々なことを教えて頂けて・・・それにポリニャック夫人が私の本当の母だとしても・・・私の母はラ・モリエールと言う女性だけですッ
エリザベート様だからもう・・・もう大丈夫です・・・私真実を知れて良かったッ・・・それにシャルロットさんが妹だったと知れたことが本当に嬉しいんです・・・」
『ロザリー・・・』
「エリザベート様、シャルロットさんの結婚の話だけでもなんとかなりませんかッ・・・私、シャルロットさんが、妹が不敏でッ」
『そうねロザリーの妹だものね・・・ロザリー、今度2人でシャルロットさんに会いに行きましょう・・・』
「エリザベート様・・・?」
『まずはお話をしなくてはね?』
「・・・はい!!」
『さ、今日はもう休むといいわ・・・』
「はい・・・エリザベート#様・・・」
『お休みなさい・・・』
ロザリーの髪を撫でて部屋を出た私はハンスが扉の横の壁に寄りかかっていたことに気がついた
『ハンス』
「ロザリーは?」
『泣いていたわ・・・でも、あの子は強いわね。もう自分の力で前に進もうとしている・・・それにシャルロットさんが妹だったと知れたことが嬉しいみたい・・・』
「そうか・・・」
『あと今度2人でシャルロットさんに会いに行ってくるわ』
「それはッ」
『大丈夫よ、シャルロットさんに会いに行くだけだもの』
「わかった・・・そろそろ部屋に戻ろう」
『えぇ』
その次の日の夜会にロザリーは出席をし泣いているシャルロットに出会い和解しロザリーはより一層シャルロットをーー妹を愛おしく思ってしまうのであった・・・
ベルサイユ宮殿ではより一層アントワネットとフェルゼンの噂が加速
ベルサイユの貴婦人の間にはアントワネットを非難する者まで出てくる・・・
オスカルはアントワネットに忠告をするがアントワネットはそれを一喝する・・・
そして…ベルサイユとは離れたパリのある屋敷において王妃の名を語り男から金を巻き上げる女が1人・・・
この女がきっかけでアントワネットが不運の道を辿ることになる事になるとは誰もこの時知るものはいない・・・
そして・・・
王妃と外国人青年将校・・・フェルゼンの噂がパリの街にまで広がっていた・・・
prev / next