▼ 007
アントワネットがデュ・バリー夫人にいまだに声をかけずフランス国王ルイ15世が激怒した
話がミィシューレに帰国し暫くたったエリザベートにも届いていた・・・
『なんですって!!マリーが国王を怒らせた!?』
「はい。フランス国王は烈火の如くお怒りだそうです」
だからマリーに気をつけるように言ってたのに!
あの子が生粋の王女だということは分かってはいたけどまさかまだ声をかけてないだなんて
───さすがに国王を怒らせるのは外交問題になりかねないしオーストリアの女帝であるマリア・テレジア様にも迷惑がかかるわ
「姫様・・・」
『ばあや、お父様とお母様のところへ行くわ』
「こ、国王様と王妃様のもとへですか?あ、姫様お待ちください!!」
あんまり直接早い段階で関わりたくなかったしまだ関わらなくても大丈夫と何というのはわかるけど
私が転生してしかも存在しなかったミィシューレ王国まである
何が変わってもおかしくない状態の今何もしないなんてことは出来ない
大切な親友のために慰めてあげるとかできることをしてあげたい
『お父様お母様お願いがございます』
「どうしたのだエリザベート」
「エリザベートどうしたのですか?」
「お父様、お母様私をフランスに留学させて下さい」
「ふ、フランスへ留学!?」
「エリザベートそなたはまだフランスから戻ってきて1年も経ってないのだぞ!?」
『どうかお願いします』
「エリザベート認めてあげられないわ。あなたが行きたい理由は分かっています。フランス王太子妃であるマリー・アントワネットのためでしょう。今回のことは私も聞いています。王太子妃である以上あの子はもっと気をつけるべきだった。それにあなたが関わる必要はありません」
滞在を勝手に延ばされたことにお母様は怒っていると帰国してすぐ夫である伯爵から聞いたばあやはすぐに教えてくれた
お母様の怒りはすごくて手紙を出すことも3ヶ月ほど許してくれなかった
『それはそうかもしれません。ですがミィシューレにまで外交問題が関わってくるかもしれません。お母様お願いします』
「ダメなものはダメです。エリザベートを部屋へ連れて行きなさい!」
「かしこまりました」
『お母様!!!』
お母様が言ってることは私も理解出来るしその通りだと思う
でもここで諦める訳にはいかない
それから毎日のようにエリザベートはフランスへ行くことを願い出た
そして1771年12月10日
「わかりました。では来年のベルサイユ宮殿である新年の挨拶にミィシェーレの使者としてエリザベート貴女が行きなさい。陛下もそれならと許してくださったわ」
『お母様!』
「ただし!挨拶をしたその日に貴女はミィシェーレに戻りなさい」
『ありがとうございますお母様!ばあや!フランスへ行く準備をするわよ!!』
「今からでございますか!?」
『お母様は帰る日は指定したけれど行く日は指定しなかったもの!』
善は急げというじゃない
出発の準備を早くしなきゃ
「!?待ちなさいシシィ!シシィ!」
「シシィの方が上手であったな王妃」
「笑い事ではございません!!」
「ひと月ぐらいは許してあげなさい。半年も毎日願い出ていたのだから」
「ですが陛下」
「しかし、あやつの兄たちがなんというか」
エリザベートが嬉しそうに出ていったのを父であるミィシューレ王国国王はエリザベートの兄である息子たちの反応を想像してため息をついた
「姫様まさかとは思いますが今から出発する気では・・・」
『やだわばあやそんなことはしないわよ。明日出発するのよ』
「あ、明日でございますか!?」
さすがに準備に時間がかかるしさすがに今からなんて言わないわよ
「エリザベート!!」
『お母様』
「ミィシェーレを出発するのは12月27日です。いいですね。それが嫌ならフランス行きはなしです」
『わかりました・・・あ、お母様私がフランスへ行くことはお兄様たちには言わないでくださいね!!』
さすがお母様私が出発するのを見越して日程を指定してきた
4・5日はいられそうだしまあいいかと私は納得することにした
1771年12月27日 ミィシェーレ王国
「気をつけていくのですよ」
「はい。では行ってまいります」
フランスへと旅立った馬車を見えなくなるまで国王と王妃は見送っていた
その後29日の朝にエリザベートはフランスへ到着したが年末で忙しいということもありエリザベートは1月1日まで貸してもらった部屋でばあやと2人過ごすこととなった
1772年1月1日 ベルサイユ宮殿
マリー・アントワネットがフランス王太子妃としてベルサイユに来てからおよそ2年もたって
はじめてデュ・バリー夫人は最初の言葉をかけてもらったのである
貴婦人たちが新年の挨拶のためにアントワネットの前に順々に歩み寄った時であった・・・
「きょうは・・・ベ、ルサイユは大変な人ですこと!」
わーっわあー!!「ほーっほほほ・・・」デュ・バリー夫人の高笑いと貴族たちのざわめきが広間に響く中「おお、おお!アントワネットやこっちへおいで」と国王がアントワネットを呼ぶがアントワネットは悔しさから広間を飛び出してしまった
「アントワネットさま!!」
オスカルは追いかけアントワネットを呼び止めるがアントワネットは止まらず走り続けた
アントワネットの頭の中には先程のことがぐるぐると周りドレスの裾を踏んで倒れてしまった
「負・・・けた・・・フランス王太子妃が・・・フランス王太子妃が娼婦に敗れた」
生粋の王女として生きフランスの王太子妃となったアントワネットにとってはじめての屈辱であった
『マリー?』
「シシィ?シシィ!わ、私は娼婦に・・・娼婦に敗れたわっ」
エリザベートがアントワネットを抱きしめるとアントワネットはワーッと泣き出してしまった
『マリーあなたは負けてなんてないわ。あなたは王太子妃として下のものに声をかけてあげただけよ。王太子妃として立派だわ』
「アントワネット様!!・・っ───エリザベート様」
『オスカル様お久しぶりです』
「エリザベートさ、ま・・・なぜここに───」
『ふふ、驚きすぎですわ』
「あ、いえ───アントワネット様大丈夫でございますか!?」
「オスカル・・・ええ、大丈夫です。今日、一度だけ私はあの女に声をかけたわ・・・でも、でももうこれきりで終わりです!!もうあの女には絶対に・・・絶対に一言だって話しかけません!!」
『マリー私は貴女を親友として誇りに思うわ』
「(エリザベート私は貴女に救われてばかりだわ・・・私は貴女が側にいないと───)」
泣き続けるマリーを抱きしめながら『これってもしかして滞在終わり??』と思った
案の定ばあやが「帰りますよ!」と言ってきた
『(やっぱそうなるよね・・・)マリーごめんなさい。私もうミィシェーレに帰らないと』
「そんな!いやよ!!帰らないでシシィ!!」
行かないでそばにいてというマリーに胸が締め付けられるけどお母様との約束を破るわけにはいかない
『マリー、お母様達との約束なのよ。大丈夫、あなたは1人じゃないわ』
「いやよ!!私はシシィにいて欲しいの!!お願い、帰らないでちょうだい・・・」
「アントワネット様・・・」
オスカル様も心配そうな顔をしている
でも私にはどうにもできないのだ
そしてばあやもそれをわかっているからこそ強めに私に言った
「姫様!!お帰りになられるお時間です!!ミィシューレに明後日にはつかなくてはならないのです!おはやく!」
『ばあや』
「シシィ!行かないで!そばにいてちょうだいっ」
私はマリーをもう一度強く抱きしめた
『マリーごめんなさい。今回は帰らないと・・・でも待ってて。時間はかかってしまうかもしれないけれど必ずフランスにまた来るわ』
「わかったわ・・・絶対よ絶対に来てね約束よ」
「さあ!姫様行きますよ!!長居しては帰りたくなくなるでございましょう!?」
『───マリー約束するわ!後お手紙書くわ!!オスカル様もお元気で!!ば、ばあや・・・そんなに引っ張らないで!』
「姫様勝手にどこかに行かれては困ります!」
『だって・・・』
「だってではありません!本当にわかっておいでですか!?」
エリザベートは馬車でばあやに怒らされながらミィシェーレに帰っていた・・・
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