はちみつフィーリング

ガブくんが何を考えているか、僕がなんとなく分かるようになってきたのは、キャンプが終わってからすぐのことだった。つまり僕がガブくんと出会ってから、そんなに時間はいらなかった。

ガブくんのジェスチャーや表情で、彼が楽しんでいるとか何か企んでいるとか、お腹が減っているとか、一緒に過ごすうちに分かってきた。特にプレー中の僕とガブくんの意思疎通については、僕自身驚いているくらいだ。外国人だからリアクションが大きいということもあると思うけど、それでもガブくんのことを何考えてるか分からない、という人は多い。

悪戯好きな楽観主義者……みんな、ガブくんのことをそんな風に思っていると思う。僕もそう思う。でも、それだけじゃないと思ってる。

僕はガブくんの考えていることがみんなより何となく分かる。でもほんとに何となく、というだけで、全部は分からない。

そして、僕が思ったことがガブくんに伝わっているのかも、分からない。





「う、わ!」

突然両肩に体重をかけられ、僕はよろめいた。同時に楽しげな笑い声が聞こえ、僕は犯人の正体を確信するが、怒るどころかつい口元を緩ませてしまう。

「……もう、ガブくん、びっくりするじゃないか。」

僕は何とかその場に踏みとどまり、白い歯を見せて笑うガブくんに言った。

でもガブくんは僕が怒っていないことを分かっているのか、またにーっと笑って僕の首に腕を回してくる。

「わ、ちょ、ちょっとー!」

ガブくんの腕にだんだんと力が籠ってきて、僕は慌ててその腕を振りほどこうともがく。でもガブくんは離してくれなくて、やっぱり楽しげに笑っていた。

もう、こんな風に笑われると、怒る気なんて起きるはずないじゃないか。

力ずくで振りほどくことも出来ず、軽く肩を竦めて僕は苦笑した。

「あはは、二人ってほんと仲良しですね。」

後ろから声を掛けられ、振り返ると椿くんがいた。

「仲良し、かなあ?」

「仲良しですよ。」

首を傾げながら言った僕に、椿くんは優しく微笑む。

「ガブくんと殿山さん、しょっちゅう一緒にいますし。」

「それは、」

ガブくんが僕のところに来るから。

そう言いかけて、僕は言葉を途切れさせた。そして、ガブくんの方をゆっくり振り返る。

ガブくんの大きな瞳と目が合い、思わずどきりとした。

「………どうしたんですか?」

はっとして椿くんの方を向くと、椿くんは不思議そうに僕を見ていた。

「あ、ご、ごめん。」

僕は慌てて謝る。

その時、遠くから椿くんを呼ぶ声がした。多分、監督だと思う。

「大丈夫です。えと、すみません、じゃあこれで。」

椿くんは爽やかな笑顔を残して、走っていった。

ガブくんは片腕を僕の首に回したまま、椿くんの背中に手を振っていた。僕がその手を掴んで、軽く引っ張ると、ガブくんは僕を拘束していた腕も解いた。

「……ガブくん………。」

僕はガブくんの方へ向き直った。

ガブくんは、僕の顔を見て首を傾げる。

僕はさっきの椿くんの言葉に衝撃を覚えた。自分自身でも気付いていなかったんだ、そのことに。

自他共に認める存在感の薄い僕なのに、僕はガブくんに、ここにいるよって言ったこと、ない。

この前の試合も、ゴールが決まった時真っ先にガブくんは僕のところに来てくれた。

ガブくんは、最初から、僕のことを見ていてくれた。

「ガブくん……僕のこと、見てたの?」

そう問うと、ガブくんがこくりと頷いた。

「え?」

言葉が通じてるとは思えないのに、でも、ガブくんの目には自信が漲っていた。

「ガブくん、分かるの……?通じるの?」

もう一度ガブくんが頷き、にこっと笑った。

まるで、君が何処にいても分かるよって、言ってる気がして、思わず鼻の奥が痛くなる。

「っ、う……」

嬉しかった。

「エ?エ?」

目元を拭う僕を見たガブくんは、驚いて顔を覗き込む。

「……あ、は。大丈夫だよ。なんか嬉しくて………。」

泣き笑いになっちゃったけど、僕は言う。

思えば、同じ言語を使っていても伝わらないことだってあるんだ。逆に、言葉が通じなくてもちゃんと伝わることもあるよね。

このまま僕の気持ちも、伝われば良いのにな。

そう思って、僕は口を開く。
「ねえ、ガブくん。」

君が眩しいんだ。

「………好き、だよ。」

聞こえるかどうかの小さい声で、僕は言った。

でもさっきと同じような口調だし、単語も知らないだろうし、ここまで通じるなんてことあるわけない。むしろ分かってほしいなんて、おこがましいことだ。そう卑屈に思って最初から諦めていたのに、ガブくんと目が合って僕は目を見開いた。

ガブくんは少し放心したような顔で、僕を見ていた。

「ガブ、くん?」

こんな表情、見たことない。

ガブくんは瞬きを何度もして、僕を見た。そして、勢いよく僕を抱き締めた。

「っ!?え……?」

ガブくんの力強い腕が、僕の肩と腰をきつく締め付ける。

「もし、かして……?」

僕が言うと、ガブくんはまた頷いた。

「ガブくん……。」

伝わってる?

「………っ、」

伝わっ……た………?

拭いたはずの涙がまたじわりと浮かんできて、僕は拭こうとするが、ガブくんが僕の腕を押さえていてそれは叶わない。

ぼろっと頬に涙が流れると、ガブくんの頬にもそれが触れ、ガブくんは顔を上げた。そして自分の顔が涙で濡れたのにも構わず、小さく笑みを浮かべて僕の方へ顔を寄せてきた。

「あ、ちょ、ガブくんっ……!」

頬を舐められて僕は後ずさりしようとするが、それを許さないとばかりにガブくんは僕を更にきつく抱き締めてきた。でもガブくんは、少し舌を出して軽く眉を寄せた。

「……う。」

「はは……もう、ガブくん、しょっぱいに決まってるでしょ。」

泣き笑いで僕が言うと、ガブくんも笑った。

それから、僕の頬にキスをした。続けて、耳元に、目元に、額に。

「ガブくん、くすぐったいよっ……。」

くすくす笑いながら僕は言う。

ガブくんは満足げな笑みを浮かべ、もう一度僕を抱き締めて、僕の耳元で囁いた。

「………トノ、スキ。」

「っ!」





言葉がなくても大丈夫。

僕たちの心は、繋がってるから。






――――――――――――

ゆいさんが私の日記絵を見てガブトノ書いてくださって…!
届いたやったね、やったね…!!
言語以外に互いのしぐさで感じ取るのガブトノの本質だと思ってます
ゆいさん悶えましたありがとうございます//!!

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