// Un choc et le suivant du premier motif
「鍛冶邸鶯って知ってるか?あの、私の幼なじみの」 三郎が、今まで思っていた彼女の名前を口にしたものだから、あまりの唐突さに僕は一瞬返答に詰まってしまった。 「…うん、知ってるよ。ものすごい読書家だよね」 「ああ、それもそうなんだが……、あいつ、生物委員でさ」 「ハチと同じだね」 「そうそう、昨日の夜あいつから電話が掛かってきてさ、ハチのやつに今日告白するって言ってきたんだ」 「!…ハチに?でもなんで三郎にそれを宣言したの?」 「誰かに宣言したほうが自分にプレッシャーがかかるからじゃないか?」 だとして、どうして三郎がそれを僕に言うんだか。ハチに彼女が出来るチャンスだから?しかし僕は落ち込んだ。そして、僕は午後の授業の間中、ひたすら悩んだ。 鍛冶邸さんの恋路を邪魔するつもりは無いけれど、もし仮にハチと彼女が付き合うなんてことになったら僕はいろいろと耐えられないかもしれない。だからその前に、彼女にいっそ告白してしまおうか、当たって砕けてしまったほうがいいのだろうか?…いや、やっぱり告白なんてしない方がいいのだろうか。 そして僕は告白しないを選んだ。きっと今日も彼女は図書室にやってくるだろう、とタカを括ったのだ。 ある意味、逃げたのだと自覚していた。 しかし。 彼女は今日、なかなか図書室にやって来ない。僕はさっきの決断にまたも悩み始めた。 返却棚から、本棚へ戻していくなんて当たり前の動作すら億劫になりながら。 ふと、彼女が座っている席が視界に入る。 温かい陽を受けて、今日も彼女がやって来るのを心待ちにしているようだった。きっと、彼女はやって来ないから、僕はとても切ないような気持ちになる。その席がに腰掛けると、校庭隅の花壇と、遠くに、飼育小屋が見えた。彼女はいつもここからハチを見ていたのだろうか、なんて嫉妬に近いような、複雑な気持ちに心が支配されて落胆する。 噴水があって、僕からちょうど向かい側、花壇の側に備え付けられたベンチに、彼女が腰掛けていた。 ウサギに餌を遣ってるのだろうか、僕はその優しい笑顔に釘付けになった。 「……久作、ちょっと当番抜けていいかな?」 「?…構いませんけど」 「ありがとう」 ばちん、と大げさな音をたてて、窓の鍵が外れる。 がらり、と、大きく窓が開く。 外から風が、図書室の中へ。 僕の心は、既にその風とは逆方向に進んでいる。 後からお咎めを貰うかもしれないなあ、とか思いながら。 上履きのまま、窓から、外へ駆け出した。 「鍛冶邸さん!」 彼女に、その思いの丈を告げた。 急なことで、それはそれは驚いた風な表情をして、膝に乗っていたうさぎは逃げ出した。 そして、 彼女は苦笑とともに、ハチに対する好意は無いことと共に、告白をなかった事にした。 「それ、罰ゲームか何かだよね。鉢屋三郎あたりでしょう?シメておくから、あのバカが本当にごめんね」 うさぎを捜しに行くからと、彼女は僕の前から姿を消した。 どこかがズキン、と痛んだ気がしたが、悩み抜いて出した応えの結果だからか、後悔はしていない。 偶然を装ってか、どこからか三郎がやってきて、どこか気まずそうな表情でよう、と言った。 「三郎、もしかしてもしかしなくても嘘付いたでしょ」 「あー……、」 三郎にしては珍しく、なんとも申し訳なさそうな顔をする。 「ごめん」 「……、べつにいいよ。鍛冶邸さんがハチのことが好きじゃないって分かったし、それなら僕、頑張るから」 三郎はよほど驚いたと見える。何か聞こえない言葉をぼそぼそ呟いて、少し嬉しそうに言った。 「雷蔵……したたかになったなあ」 「あのねぇ、」 第一主題の衝動と追随 「そういえば、三郎」 「ん?」 「いつから僕が鍛冶邸さんのこと好きだって知ってたの」 「……、さっき」 「へえ…………、まあいっか」 |