// Les plus désespérés rencontre avec une Garderhut
昨晩、鉢屋三郎にあんなことを言われたからには、今日はどうにも図書館に行きづらい。なぜなら、なんて理由は言わずもがな、本日の当直は不破くんだからだ。 別に、避けるつもりはない。唯……今行けば鉢屋三郎に出くわしそうな気がした。それはそれはとても芳しくない状況に陥るだろうとは、安易に予想出来る。 まったく鉢屋三郎が考えていることは今も昔も掴めないが、嫌な予感なら大抵当たるのだから、回避するほかは無いだろう。 さて私は現在、生物委員の、たったいま掃除が終了した飼育小屋の前にいた。私は中等部に上がって以来、一貫して生物委員のままである。しかし放課後に訪れることはほとんど……しいて言えば、何か生き物が危篤の状態等を除いて、なかった。その代わり私は昼休みの当番をほとんど独占しているのだが、まああえて語るほどのものでもない。今日は上ノ島くんが風邪をひいて休んでるだとかで、しょうがないから(というのは名ばかりだけれども)冒頭に述べたように図書室に行くには気が引けるから、うさぎに癒やしを求めてここまでやって来た。 よって今日の当番は私と同級生で委員長代理の竹谷八左ヱ門だ。そしてそのどら○もんならぬ竹左ヱ門……じゃない、八左ヱ門は発注していたうさぎと鶏の餌袋を受け取りに行ったきり、ここ二十分程戻ってきていない。うちの事務室には壊滅的なドジっこ事務員、小松田さんがいる。きっとあと三十分は戻って来ないだろうとサバを読んで間違いなさそうだ。 と、そういえば竹谷ヱ門……じゃない、八左ヱ門もかの六人組の一人だったか。なる程男前な訳だと納得するような理由は特にない。私の彼に対する認識は「生き物に優しく、人に厳しく」がモットーである人間だというだけだった。あまり接点が無いせいかも知れない。ちなみに、彼のクラスは隣だ。不破くんや鉢屋三郎と一緒。 それはちょっと羨ましい。 私は膝にウサ吉を抱えて陽の当たるベンチに腰掛ける。ウサ吉は今日ものんびりとおやつをモリモリと食べていた。おやつとは学食のおばちゃんに貰ったニンジンの皮である。 つぶらな瞳と、私の手から少しずつニンジンの皮を食べる姿がかわいい。とてもかわいい。 モコモコとした毛を撫でるのがもう幸せだ。不破くんの髪の毛もこんな感じなんだろうか。 と、その時だった。 「鍛冶邸さん!」 「!?」 心臓が口から飛び出るかと思った。 ビクッと肩が竦んだうえに、ちょっと飛び上がってしまったせいで、ベンチがガタンと音を立ててウサ吉がびっくりしたような怯えたような目で私を見た。ごめん、ウサ吉。 「え、えと?」 振り返れば、そこには、何故か、不破くんが。 ええとこういう状況を何て言うんだっけ、井の中の蛙…じゃない、蛇に睨まれたカエル?不破くんは蛇とは似ても似つかないけれど、とか今この状況で考えているのは余裕からではない。現実逃避からだった。 「あの、鍛冶邸さんがハチの事が好きなのは知ってるんだけど……」 「はい?」 ちょっと待て今何て言った?しかし不破くんのその目はしっかりと私の双眸をとらえていた。くらり、と目眩がしそうな気がする。心臓が破裂する。何を勘違いしてるのかわからないけど不破くんは顔を真っ赤にして続ける。 「僕、鍛冶邸さんのことが好きだから、ええとあの、良ければ付き合ってください……、いやでも鍛冶邸さんはハチにこれから告白して……でも僕ほんとに前から鍛冶邸さんのこと……今言うのってすっごく迷惑だとは思うんだけど……うーん」 「いや、え?」 ちょっと待て、今私の目の前で何が起こってる? 鉢屋三郎の嫌がらせではない、これは間違いなく不破くんだ。だから今不破くんは何て言った? ああウサ吉、逃げないで、逃げたら追いかけるのが大変だから。行かないでお願いだからちょっと私をひとりにしないで。 これは夢だろうかそれにしても私は不破くんと付き合うだなんてそんなことこれっぽっちも望んじゃいなくて、というかそもそもどらえ○んのことは好きじゃない……間違えた八左ヱ門のことは好きじゃない。 たとえ夢の中だとしてもこうなることなんかこれっぽっちも予想だにしていなかった。こんなわけのわからない展開はベタな少女漫画の中だけの話だ。 何かよくわからないけど悩んでる不破くんの髪の毛はウサ吉よりもふわふわしている。とかそんなことを考えてる場合じゃなくて、ああもう脳内はぐしゃぐしゃだ。 「ええとあの……、…え?」 私の目の前で何が起こってるの。 飼育小屋とほとんど絶望的な邂逅 (おーやってるやってる) (三郎お前雷蔵に何やらかしたんだ?) |