// Boy S ingérence
さて、今日もいつものように、返却棚から、面白そうな本を数冊抜き出して私はいつもの席につく。 本日は太宰の「ロマネスク」と「日本の文化と宗教の伝承解説」と「聞く!クラシック入門編」と「思考の整理学」を主に消化するつもりだ。見事にてんでばらばらな四冊だが別に何かにこだわって本を読んでいる訳でもない。今日はたまたまそんな気分だっただけである。 いつだったか、“不人情”ではなく“非人情”に本を読むのだとか、そんなことを何かの小説の主人公の画家が言っていたように、私もそんな読み方で本を読みたいと思っている。限られた時間の中で満遍なく知識を吸収したいからだった。だから別に、たった1日の放課後、数時間で、一字一句漏らさずにこの四冊を読むつもりなんか、更々にないのだ。小説だってそうだ。シリーズであれば、佳境を先ず読む。それから、最初から読むかを決める。安心してラストまで読めないのは苦痛以外の何者でもない。 そんな自分ルールを今日も遵守している。 それから、今私の目の前にある本たちは、この四冊だけではない。色々な系統の本がしめて十五冊程積んである。気分で気まぐれに本を変えたいためだった。 ぺらり、ぺらり、と定期的に規則的に紙が擦れる乾いた音が雑音となって図書室に落ちていく。拾ってくれる人などいないそれらは、ただ虚空に溶けていくドライアイスの煙に似ているのかもしれない。 さて、ちなみに言えば、今日の当直は不破くんじゃない。中等部の一年生と、高等部の三年生(図書委員長)だ。珍しく、昼寝している女の子もいない。いつにも増して、静かだった。 カチコチと、何時から置かれているのかもしれない古い古い時計が一定間隔に時を刻んで行くのが心地良い。 だから、図書室が好きなのかも知れない。でも、こんなことなら図書委員にでもなれば良かったとは思わない。生物委員を選んだことに後悔はしていない。どうせ、ほとんど毎日通ってるんだから同じことだろう。 でも、図書の整理をするという名目で休館日にも図書室に入れるのはとても魅力的な特典だとは思う。 ふと、窓の外に見えた、ふわふわとしたその髪に、胸が高鳴る。 花壇の辺りを、不破くんと、鉢屋三郎が歩いていた。 何を話しているのだろう、とても楽しそうだった。 口もとがにやけるのがわかって、あわてて本で隠す。まあどうせ、向こうからこちらは見えないだろうけれど。 せめて見えなくなるまで、目で追っていよう。 一瞬、鉢屋三郎と、目が合ったような気がした。 それでもそれをさして気にはせず、私の目は相変わらず不破くんを追っていた。 この時の失態が、後々思わぬ方向に転じるというのに、私は相当な馬鹿だったと言えよう。 その夜、鉢屋三郎からの着信、用を聞けば物理のノートを貸せとのことだった。クラス違うのにアテにすんなボケと言ったが、いいから貸せといって聞かない。 向かい合った窓越し、一メートル三十センチ。 既に借りる気満々の奴にノートを投げ渡す。 そして。 鉢屋三郎の言葉に、私の脳内は三秒ほど停止した。 「なに、お前、雷蔵のこと好きなの?」 面白そうにによによと笑うその頬をぶん殴ってやりたくなる。畜生、私がゴムゴムの実の能力者だったら今すぐ奴をぶん殴ることが出来るのに。生憎窓が隔てるこの間一メートル三十センチは私に不利、彼に有利な状況を作り出していた。 「図星か」 「……。まあ」 「お、認めた。よしじゃあ……」 「だからって何もしないでください。頼むから、どうか関わらないで下さい」 「えー 「いや『えー』とかじゃなくてね」 「……何もしないのか?」 「うん、見てるだけで充分」 「ふうん、わかんないな、そういうの」 「どうしてよ」 「私はもっと積極的だぞ」 「……、でも何とも想われてないみたいじゃない?」 「な、お前なんだよ知ってんのかよ」 「だって知り合いだもんよ」 「……、私はいいんだよ。あいつがツンデレなだけだ!」 「デレてな」 「みなまでいうな……っ」 ちょっと鉢屋三郎が可哀想になったので塩を塗り込むのはやめておくことにする。話が逸れてしまったのをいいことに、さっきの会話も忘れてはくれないだろうか。 少年Sの干渉 そのままでいい。(訳がない!) このままでいい。(筈がない!) だから、こわさないでほしい。 (進展と崩壊はまるで別物さ!) |