「過って、ひといきに殺してしまいそうだ」 抑揚の無い、大根役者の台詞の様な声だった。 しかしその鳶色の瞳はギラギラと猛禽類のように輝いて、己の五感を鷲掴みにする。第六感が叫んだ。最早己に逃げ道はない、と。 「しかしだ、貴様はそれに値するほどの輩かい?」 月に照らされた髪が不気味なまでに赤々と輝く。 白く細い指が、時折カチカチと音を立てて動いた。 見つめあったまま、もう半刻いや一刻経ったのではあるまいか。否、ほんの数拍の鼓動分かもしれない。 しかし何かが音を起てずに始まろうとしているのは明確だった。 己の唇はとうに恐れをなして、この男の垂れ流す、全身の毛穴が粟立つような殺気に震えながら疑問を投げた。 「なに……ゆえ」 「足りない脳味噌で考えてみるのは如何かな」 ぐいと引き寄せられて己は、彼の纏う紺の装束に気が付いた。 先に、己が仕留めた、男と、同じ。 つまりは、そういう事だろう。 「貴様はあいつの、八倍苦しめ」 彼の唇が、三文字を吐き出す。 (数秒後に此の命は尽きるだろう。) 何かが身体を貫いて、カタカタと童女の人形の首が笑うように揺れた。その清らであったろう白麻の衣はところどころ血に塗れて、雪上に寒椿の首々が落ちた様宜しく、なんとも縁起の悪い模様を描いていた。 今一度、鳶の瞳を垣間見る。 己を殺した彼の瞳、刹那に浮かんだ悲しみの色。 それを不覚にも美しく思うた己に、可笑しいかな、悔いはない。 焼けるような痛みと相矛盾して、遠くなる意しき。 重くなるま蓋、 いうことをきかない指さき、 もえるようなくれないいろと、 かたかたとわらう、からくりのおと。 そしてきっと。 心臓に、穴があく 100903 ふと描きたくなった殺された忍目線。名前もないどっかのだれかさん。 [*] | [#] |