紅 | ナノ








結局。
立花率いる作法委員もといS法委員には敵う筈もなく、捕らえられた紅槻は桃色の振り袖着させられ、山吹色の帯を存分に締められ、偶然通りがかった斉藤に髪をやりたい放題に結われた挙げ句、作法総出で羽交い締めにされて委員長直々に化粧を施されたのだった。
紅槻は既にげっそりやつれたような表情だったが、立花は世のため人のために良い仕事をした、とでも言わんばかりの清々しい笑顔で、紅槻は少し泣きたくなった。


「さあ潮江を存分に誑かせ」
「えーと……」
「不平不満は聞かん。ここに台本がある。よく頭に叩き込んで置くんだな」
「(用意周到過ぎるだろう……)」


綾部が渡してきた小冊子にはご丁寧に「たぶらかせ!ギンギン野郎ギャルゲー大作戦☆」と書いてある。
☆はいらないだろう、☆は。と紅槻は内心突っ込んだが、少々ツッコミ所がズレている辺り、彼女の滅入り具合も知れたものだった。
そもそも室町にギャルゲーは無い。


「『わたし……前々から…潮江さんのこと』」
「棒読み過ぎる!もっと焦らせ!」
「…………。『わたし……前々から…潮江さんのこと…』」


反吐が出るどころか口から砂糖を吐きそうだった。活字を追っているだけなのに目眩がする。
視界の隅で笹山が爆笑しているのを必死に浦風と黒門が隠そうとしていた。綾部はすでに上の空で、演技指導にあたる立花も必死に笑いをこらえている様だった。既に委員会活動として何かが崩壊しているとといえる。
廊下まで逃げた際に裏切ってくれたい組コンビがこれほど憎らしく思ったことはない。委員会活動が済んだらみんなで勉強会しようと言ってきたのは確かに尾浜だった筈だ。
台本によれば、紅槻は会計委員長に相当いかがわしいことをしなければならないようだった。


「あの、これやるんですか」
「勿論だ」
「せめて媚薬盛るところまでになりませんか」
「ふむ…」
「そもそも媚薬なぞどこから……」
「紅凪先輩びやくって何ですか」
「まだ伝七は知らなくていいものだ。……しかも私が攻めですか。どこの春本だよ」
「紅凪先輩春ぼ「みなまでいうな、兵太夫はまだ知らなくて良いものだ」
「心配無い。媚薬は伊作に言って煎じて貰ったこれを使え」
「出どころ言うべきではありませんよ先輩。私少し善法寺先輩を見損ないました」
「つべこべいうな、なんとしても我々は予算を勝ち取らねばならないのだ」


深くため息をついて、紅槻はまた春本紛いのそれに目を落とすが、障子を叩く音に中断させられた。


「失礼します」
「久々知に……福富…っ!……どうした」
「紅凪を返して貰いに来ました。これから学園長におつかいを頼まれたので」
「ぼくたち、今から隣町まで行かなきゃいけないんですー」
「……っ、今すぐにか」
「今すぐなんです」
「ついでに言えば、喜三太も一緒ですよ。もうすぐ来ますけど」


まさに鶴の一声。
久々知のずいぶん堂々たる物言いかはたまた福富のせいか厳禁のせいか、珍しく立花が折れた。学園長のおつかい、と言われればどうしようもなかったのだろう。
解放された紅槻を連れて校門まで来ると、久々知は自分の顔の皮をむんずとひっつかんでべろんと剥がす。その下は不破の顔だった。つまりもとより、鉢屋三郎。
紅槻は安堵の溜め息をついた。


「助かった…二人ともすまなかったな」
「それにしても紅槻先輩きれいですねぇ」
「ありがとう福富」


紅槻は苦笑する。あまりうれしそうではなかった。
鉢屋が懐から金平糖の袋を取り出して、礼とともに福富に渡した。終始にっこにこと笑顔の福富に、紅槻はぼそりと呟く。


「どこで捕まえて来たんだか」
「お菓子くれるって鉢屋先輩が」
「……知らないひとにお菓子くれるって言われてもついて行くんじゃないぞ」
「はぁい」


聞いているんだかそうじゃないんだか、福富は猪ノ寺たちを探しに行ってしまった。
鉢屋が紅槻の手を取って口を開く。


「さあ行くか」
「どこに」
「せっかく女装してるんだ、忘れてるわけじゃないだろうな、団子」
「勉強会はどうした」
「そんなの今度でいいさ」
「……もう閉まるぞ、団子屋も。夕暮れ時じゃないか」
「じゃあ晩飯食いに行こう、明日授業無いし」
「……、仕方ないな」


鉢屋は心底嬉しそうに笑う。つられて、紅槻も笑った。






(で?どうしてそうなった)
(何も訊かないでくれ……後生だから)





100228

祇音のテンションが意味不明だ…orz

- 50 -


[] | []