きっと、 私はお前を好きになるだろう、きっと耐えられなくなるであろう、今こうしてお前が私を好いていることがようくようく判るから、だからお前は苦しかろうと云うことも、ようくようく解っているのだよ。 お前が私のことを好きだの愛して居るだの云おうとする度に、すまないと謝ろうかと思うのだが、しかしお前は敢えて口に出してそれを云うをしないのは、私がそれを解っているのだと分かっているからなのであろ、そのとおりだ私は解っているよ。 だから私たちはせめてもの無駄な足掻きをするのだよ。 いつか私はお前の心と云う名の海ないし川ないし沼ないし、例いそれが水たまりであろうと、ソレにざぶんと水しぶきをたてて跳び墜ち溺れる日が来るのだろうか、私たちの関係の変化に伴う後遺症がどんなに重い苦しい呪いの様なものであろうと、それでもそれを甘んじて受け入れるようになるのだろうか。 それ程にお前の事が好きだ。 狂おしい程に愛しいが現だ。 しかしお前の事が大切だ。 やがての先の後の我々が忍となり草の者として生死の狭間を縫う様にして暮らしながら日々歩むその道の足下の、一寸先とも照らされては居ないのは、今の生活の明るさが偽りであるとかそういうことを云いたいのではなくて、ただその世界で生きて行くことをとうにとうに決めていた私にはやはり今更近づき難いものがあって、なぞ云ったらお前はきっと怒るであろうね。 しかし私の両手は既に己の髪の色に更に更に更に朱を重ねたような見事なまでに恐ろしい血色に染まってしまって居るのだよ。だからなんだと君は笑うであろう、しかし私はこの両手でお前に触れたくないのだよ。お前は馬鹿だと嗤ってくれたっていいんだ。それでも贖罪を乞うつもりは皆無だから。 しかしながら私の事を好いてくれることがとても嬉しいのもまた事実。なんて嗤いたくなる現だろうね。 私はぬるま湯の中で決して落ちないこの穢れを削ぎ落とさんと一人足掻くのだがどうにも先が明るくないのだよ。 だからといって、お前が私のように屍色に染まるなぞ言い出したら私はお前を殴るであろ。お前が私のようになる必要なぞその時が来るまでないのだから。 いつかお前はこんな私を嫌いになるかもしれないね、苛々するやもしれないね、ひょっとしたらもう既に君の興味の範疇から外れた所に居るのかも知れない、けれど私は決してこの思いを曲げたりしない。 そう決めたからには君の思いも受け入れられないということを、解ってくれなくても良いんだよ。 私はお前のことが好きだから、 ただ必死にこの距離を保とうとするんだよ (これ以上近づいたなら) (きっと戻れなくなるであろ) (其れも幸福となるであろ) (蓋しそれは仕合わせだろうが) (いつか悔やむときが来るであろ) **** 100131 私の生まれは人形師、哀しいかな、感情を殺すのが生来よりとても得意なのだよ。 (鉢屋の告白に応えない理由というか言い訳) [*] | [#] |