思い返せば、それは随分簡単に済んでしまったように感じる。 先ずは弐乃助、大きくのけぞってはその腕を回転させ、地を蹴った。全く無駄の無い軌道で宙をひらりと一回転すると同時に、頭の首を攫おうとした。 彼は何も驚く様子を見せず、ゆっくりと紅凪に向かって歩みを進める。 攫おうとした、に留まったのは頭の連れていた玖拾玖姫がそれを庇った故である。避けようともせず、彼女の頸の骨と骨の間に食い込んだ弐乃助の左手を、容赦も迷いも無く頑強な骨組みで以てへし折った。バラバラと木片と金属の砕ける音が、紅凪に伝わってきた。 真っ直ぐとこちらに進んでくる男ははにたりと笑った様だ。しかしながら誰かがその笑みを見ることはない。 片手になった弐乃助はその体を玖拾玖姫に巻き付けるようにして、その腕封じ、その右手で片腕の袖箭を破壊した。そして伍乃朗が刀を抜けば、振るう。 ぎい、と気色の悪い音を立てて、破壊しそびれたもう片腕の袖箭ごと切り落とし、ぎちりと食い込んだ刃を抜き取ると男へと向かわんとした。 玖拾玖姫がどうにかその脚脛の刃で、伍乃朗の頭を切り落とす。その頃にはもう既に弐乃助は見るも無惨な姿に成り果てていた(しかしその姿は誰にも確認されなかった)。 そこで、一息ついたのだろうか、誰にも分からない。 その時、体制の崩れていた伍乃朗だったが、しかし。 首の亡くした、彼は、依然と歩みを進めて。 その背後で、壱之姫が玖拾玖姫を、仕留めていて。 伍乃朗の刀は迷う素振りなぞ点も見せずに、頭の胃の腑に、穴を開けていたのだから。 紅凪の目と鼻の先に広がる、 生暖かい音と、 鉄の臭いと、 耳を突裂く様な、 男の、 叫びが。 「ぎ、ぁ、あ、ぁぁあああああああ―――」 それでも尚、紅凪へと向かって歩みを進める。その足を伍乃朗が切り取るように動いたものの――撥条の弾け飛ぶ音が聞こえた。伍乃朗の命も尽きたのだろう。 その手が、紅凪に到達して。爪が、紅凪の首もとに切り傷を作る。 抵抗はしなかった。する気力すらなかった。 ただ、ぎい、と歯を噛み締めて、紅凪の首を絞める男の首を、壱之姫がへし折る。 最後に、伍乃朗の刀を人形に抜かさせる。 噴水の様に噴き出す生暖かい血液を浴びて、何となく、悲しくなった。 もう動かなくなった弐乃助と伍乃朗を抱き締める。いつの間にか、執着していたのかもしれない。 立ち上がって、歩き出した。 妙に空虚な感触が、こそばゆかった。 もうこの場所に、用は無いのだから。 [*] | [#] |