紅 | ナノ



絶食という仕打ち自体は、七日に留まった。貴重な人形師を餓死させる訳にはいかなかったのだろうか。七日目の夕べには重湯が差し出されたものの、その頃紅凪は既に口も訊けぬ状態だった。
かなり、体重は落ちた事だろう。
身も心も、屍の様だった。
自分でも、そう思った。
泥のような味の重湯をも残らず貪り食う様は、さながら獣のようだと、嘲笑いたくもなった。

何も怖くなかった。
ただ、世界が暗いだけだ。


立ち上がって、人形を呼び寄せた。
どしゃりと音がして、彼らは落下してきた。状態は、悪くない。
格子を破壊させる。いとも容易い作業と言えた。
紅凪は、もつれる足で、壱之姫にもたれかかるようにしながら、牢の一番奥に腰を下ろした。
牢のある地下全体に、鉄線をおおよその感覚で張り巡らせると、それぞれ、然るべきところに、弐乃助と伍乃朗を配置した。
どれだけ、考えた事だろう、と、息をつく。感慨深いのだろうか。
紅槻衆の間違いは、私を殺さなかったことだ、と、思う。そんな、いつからこんなにも、自分本意になったんだろう。否、きっと最初からこのままだったのかもしれない。いっそ磨きがかかっただけなのかもしれない。
ただ、後悔の二文字は無いから、不思議だ。
ここで死のうがそうでなかろうがいっそ、悔いは残らないのだろう。


と、そして。
つい、と頭を上げる。
聴こえたのだ。
嗚呼、今日は人人形を連れている。
何をする気だったのか。それとも、彼女の企みを知っていたのか……こちらの確率の方が高そうだ。
ならば、彼は応戦するつもりだと見受けようか。

彼女は、ゆっくりと瞼を開いた。

しかし、

彼女の、

世界は、

視界は、

暗闇で。

つまり、

その時、

彼女は、

視力を、

喪って。

けれど、

もはや、

何とも、

思わず。

口元は、

きっと、

綻んで。

嗤いたがっているのかもしれない。

何かに、
突き動かされるような感触と、共に。

意志に、
この身を委ねよう。

両腕を振るう。


血の滲んだ、両手の指先が云った。



さあ、踊ってやろうじゃあないか。



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