紅 | ナノ






或いは月の無い夜の森、

或いは星の隠れた夜、

或いは牢、


夜露の滴る音、落葉が空を切る音。
あるいは生命の呼吸、風の音。
傍らの、人形の放つ動作音。

そして、自身の鼓動。
掠れた呼吸音。


歩いた。


気の向く侭に。
意思、と呼べる様なものなどは、
消して、消して、消して。
あの暗がりに、置いてきてしまった。
希望なぞ、元より持ち合わせていない。
柵の中で、抱ける筈はない。
ただ、本能の侭。

呼吸を続ける。

足を動かし続ける。

水を飲み喉を潤す。

風鳴りに耳を澄ます。

空気から時間を測る。


でも、
けれど、
しかしながら。

彷徨っている訳ではないなんて。
ああ、
可笑しい。
大声をあげて、
嗤ってやってもいい。
そんな気力すらないけれど。

紛れもない。

確固たる意志に突き動かされているのだ。
宛ら、
あの時の様に。


己を、人形の様に、自律して、自律して。


意思の無くした人形を、操って。



唯、願う。


叶うものなら、

もう一度、



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