(安曇野与一はまだ分かる。もう一方は……紅槻?) 安曇野。彼は、五年い組の学級委員長である。そのせいで、鉢屋は彼と知り合いだった。 しかし、紅槻。 鉢屋の記憶には、無い名前。 大捜索大会をそっちのけで医務室に入り浸るつもりだった三人は、一旦緊急集会の校庭には出たものの、まっすぐ久々知のもとへ足を運ぶ。 「……紅槻って誰」 「おれと同室の……赤毛で、あの……いつも狐のお面してる人形連れてて…」 「あ、作法委員の」 「雷蔵、知り合い?」 「喋ったは事ないけど、図書室の当番の時何度か見かけたかな……派手な髪色だし、見かけは目立つかも」 鉢屋や竹谷には、言われて見れば、見たことはあるかもしれない、程度の人物だった。 「五年間兵助と同室なんだよな?」 「うん、でも……」 「でも?」 「その……あんまり、喋んないんだ、おれ達」 溜め息混じりに、続ける。 「仲、悪いのか?」 「いや……あんまし関わんないっていうか……夜だって紅槻、自主練してるのか帰って来ない方が断然多いし。それなのにあの時、紅槻があんなにはっきり言うんもんだから……」 「与一は?」 「紅槻は、おれと安曇野と一緒に逃げろって……だから途中まで一緒だったんだけど、やっぱり紅槻一人じゃ置いていけないって、戻ってっちゃって……」 「で、お前が戻って来たって訳ね」 「冷静で良い判断だったのにね、紅槻」 「大丈夫かな…紅槻達」 「総出で探してんだから、大丈夫じゃねえ?」 「……だといいんだけど」 それから、話は他愛ないものへと移っていった。 そうして夜半過ぎまで久々知と一緒にいた三人だったが、かれの様子を看に戻って来た新野先生に追い出され。鉢屋達自身も、大捜索大会に参加する羽目になったのである。 「どうする?」 「どうするもこうするも……」 「別れて探すか。今でもまだ見つかってないってことは、大分厄介なんだろうし」 「いや、あいつら、追われてたんだろ?戦闘時に三人でも不利だったんだ。紅槻の実力は知らんが、兵助と安曇野でだぞ?俺達のうち一人じゃもし見つけても加勢は出来ない」 「じゃあ、三人で」 「ナルト城って、どっちだっけ」 「東」 「じゃあ西に行こう」 「なんでまた」 「それこそ、東こそみんなが探してるんだからな」 駆ける三人の上に浮かぶ赤い三日月が、やけに不気味で。 西に随分進んだ後に、神木かと見紛う様な、桜の木の根元。 「おい、あれ……」 動かなくなったそれらは、無造作に転がっていた。何かに貫かれた様な傷と、皆首が、あってはならない方向にねじ曲げられていて、濁った瞳はみな天へと向けられている。下手な戦場より余程不気味で、三人揃って息を呑んだ。 血のにおいは濃く、淀んだ空気を誰かが荒らした形跡もない。やはりまだこの場には、誰も訪れていない様だった。 「……二人は善法寺伊作先輩か新野先生探して来てくれないか?」 「三郎一人で大丈夫?」 「ああ、多分。だが、出来るだけ早く頼む」 二人は黙って頷くと、そのまま風のように駆け出した。 鉢屋はひとり振り返るっては、あらためて死屍累々の景色を望む。 (……血痕) 森の奥へうっすらと、ずるずると続くそれを目で辿った。 (それから……面?) 足下のそれを拾い上げ。 (狐か) 何を思ったのか、その顔に被せて。 すっぽりと嵌ったそれを気に入ったのか、彼はうっすらとした紅い線を辿っていった。 [*] | [#] |