紅 | ナノ




「箏の……楽符?」

なんだこりゃ。
間違えたか。
いや、確かにこれは、あの場所にあったものだ。
鉢屋は首を捻った。漢数字の羅列は、やや規則的にも見える。
しかしながら、自他共に優秀だと認める彼が、それが暗号文であると気付くに、案の定、そんなに時間はかからなかった。

(解読には、時間がかかりそうだな……)

ぺらりと、一頁捲り。
ざっと見渡す。
しかし。
解読して、どうする?
知って、どうしたい?
何が変わる?
これ以上、
己は、
彼女に、
何を望んでいる?

(表情も感情も、目に見える様になったじゃないか)

今更、そんな。
必要性なぞ、
皆無じゃなかろうか。
けれど。
彼女は、
私に、
何といった?

〔――分からないんだ〕

その言葉は、
私に、
何を求めた?

〔お前がお前であれば良いさ〕

されば、
あの嫌な予感は、
何だったんだ?
そんなの、
寡黙な彼女が、
言うわけも無いのに。
自分だけでは、
分かりもしない癖に。
私は、
なんて無責任な。
後悔と、
弁明と、
悔悟と、
誰かに対する釈明。
誰に対して?
無性に、ああ。
そして。

(素直じゃないな)

どこかでは、わかって、いたのに。
何故自分が、こんなにも彼女に構うのか。

(……惹かれてたのか)

ただ、単純明快。
嫌になるほど、明々白々。

「……〜〜っ」

目を閉じて、書物も閉じた。
その眉間には、皺が寄った。
さて休み明けから……つまりは、明日から。
どうしたものだろう。




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