紅 | ナノ





「二週間」
「は?」
「だそうだ、医務室に入院という形を取らざるを得ないらしい。悪いな兵助」

久々知はぽかんと口を開いて硬直するばかりだった。まさに、開いた口がふさがっていない。
部屋で勉強していたら、突然にもようやく戻って来た同室の級友は包帯だらけでボロボロで、おまけに随分と痩せた風に見えて、しかも初めて名前で呼ばれるし、何がなんだかどこから突っ込んだら良いのやら。
紅槻申し訳無さそうな顔をして、口を開いた。

「戻って来ようにも山賊の一段と鉢合わせしてしまってな、恥ずかしながら不意打ちを食らって不様にもこんな様になってしまった」
「いや、あ?…え……痛くないの!?」
「……あんまり?」
「早く医務室に戻れよ!!」
「うあ、いやちょっと待って」
「何?」
「兵助にただいまと言いに来たんだ」
「うん、お帰り紅凪」

彼の表情は見えないが、嬉しそうな声につられて紅槻も微笑んだ。
その紅槻の背後の開いた障子戸からにゅっと腕が伸びてきたかと思うと、軽々と紅槻を持ち上げる。

「そう言うわけで紅槻は貰っていくぞ兵助」
「三郎!」

あー…と紅槻が唸っている間に、久々知の鼓動はみるみる遠くなっていって。せめてもの抵抗として、鉢屋の背中をぱしぱしと軽く叩きながら言った。

「下ろせ阿呆。まだ歩ける」
「ヨロヨロまどろっこしいんだよ。この方が速いだろ」
「だからって……私は赤子では無いんだぞ」
「見りゃわかるっつの。馬鹿かお前」
「馬鹿と言った方が馬鹿なんだぞ。兵太夫が言ってた」
「うるせー」
「冗談はさておいて、なあ鉢屋。男がこうも抱っこされてるの、ハタから見たら異様だぞ。気持ち悪い。衆道の気でもあるのかと思われるじゃないか」
「……」

ばっと手を放されて、紅槻はどさりと廊下に落ちる。一瞬の浮遊感が最悪だった。

「ってえ!怪我人を落とす馬鹿がいるか!!」
「着いただけだ。床からの抗議は止めてさっさと寝やがれ。新野先生ー」

がらりと引き戸を開けると、薬を調合していた新野が顔を上げて微笑んだ。

「おやおや早かったですね、それじゃあ早速怪我の治療をしましょうか」
「……そういうわけだ。鉢屋」

しっしっと手で払う仕草をしてみせた紅槻の頭を一度ぺしりと叩くと、ボリボリと頭を掻きながら彼は無言で出て行った。

「……鉢屋くんは知ってるんですか?」
「何時からかは分かりませんが…でも、彼だけですよ」
「体つきが少なからず女性らしくなってきましたからね」
「……。否定は出来ませんがボロは出していないつもりです」

上着を脱ぐと、包帯がズレて痛かった。
その躯は随分と痩せ細って、包帯が痛々しい上によく似合う。

「随分痩せましたね」
「体力が落ちました」
「よく食べて寝れば治りますよ。入院の期間は断じて短縮させませんからね」
「……はい」
「監禁中、何か薬を飲まされた覚えは?」
「いや……でも重湯なら、一度」
「薬が混入されていた可能性が高いですね。視神経が麻痺しているのかもしれません」

紅槻はこっくりと頷いた。


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