「……なんだよ…どういうことだよ…これ」 彼は驚愕の色を隠せなかった。それもその筈で、密書の中には予想からまるでかけ離れた内容が綴られていたものだから。 鷲掴みにされた答えを懐へ、立ち上がると迷うことなく走り出した。 目指す処は言うまでもなく庵である。 「――学園長先生!!」 「どうしたのじゃ鉢屋三郎、そんなに慌てて」 「紅槻が……!!」 「まだ戻っておらんのは知っておる」 「違う!紅槻衆が学園を落とす謀略を図ってるんです。だから紅槻は帰らないんじゃ?」 「はて、紅槻紅凪は家業の人形造りが忙しいのでは無かったか」 「それは嘘です」 「何故そう言い切れる」 「あいつが忘れていった紅槻衆の密書を解読しました」 学園長の眉がぴくりと動いて、諦めた風に息をつく。 「…………そうか、知りおったか」 鉢屋は目を見開いた。 「知っていたんですか」 「いかにも」 「は……」 つまり。 彼女が、帰って来ないと言うことは。 その身を呈して、紅槻衆を食い止めに行ったのか。 それが、決して。 穏便に済む訳など無いのだろう? 「そ…んな……」 声は、震えていた。 なにやら電流のようなモノが体を突き抜けて、それが彼から力を奪ったかのように、鉢屋はへたりと畳の上に膝を着く。 「なんで……止めないんです!?生徒だろ!?」 「冷静を忘れておるぞ鉢屋三郎!……あの子を止めてどうなる。紅槻衆は感情の無い戦闘集団と形容するに相応しい上に、その実力は決して並ではないのだ。学園と正面衝突すればどうなるか、想像は容易じゃ」 「だからって……」 「紅槻は帰って来んとする意志を見せた」 「……」 「鉢屋、お前には…紅槻を信じてやることも出来んのか?」 目を瞑り、唇を噛んだ。 血の味がした。 「………の……そんなの…あいつが死んだら、意味がないじゃないですか……っ!!」 先までのくだらない苛々が、腹立たしかった。 もっと早く、解読していれば。 ……解読していれば? 俺に、何が出来る? たかだか、同級生なだけじゃないか。 でも。 それでも。 学園が滅びようがどうなろうが、 何を喪おうがどうしようが、 「あいつを死なせてたまるものか」 [*] | [#] |