紅 | ナノ



「紅凪くーん」
「……誰ですか」
「事務員の小松田です。ご実家から手紙が届いてるよ」
「どうも」

内容は、読まずとも分かる。人形の、引き渡し日を知らせる手紙だ。
新月の日と決まっているから、確認する必要すらないが、諸連絡も兼ね、中は読んでから燃すことになっている。読むと言っても、琴の楽に置き換えられた暗号文なのだが。
しかしその時、普段と違った事が書かれていた。
いつもよりも、半刻早くに指定されていた。

「……」

ぐしゃりと捻り潰して、火を放つ。それは黒煙を上げて、手中で灰になった。

「あ、こんな所に居たんですね!紅凪先輩」
「兵太夫……どうした。今日は委員会は無い筈だが」
「三治郎を連れて来たんです。今日は前に先輩が言ってた、カラクリ講座をよろしくお願いします!!」
「お願いします!!」

井桁模様の忍び装束、一年は組のカラクリコンビだ。
はて、いつそんなことを言っただろうか。訊ねると、前回の委員会の時だとか。丁度鉢屋と入れ替わっていた時の出来事だったようだ。出来ることなら関わりたくないと心底思ったが、やってやるとの鉢屋の勝手な約束を自分の都合で撤回してよい子を悲しませるほど、紅槻は自分を鬼畜だと思わない。

「一年は組か?」
「はい!夢前三治郎です。三治郎って呼んで下さい、紅槻先輩」
「私も紅凪でいい。それじゃあ、やろうか」

低学年のよい子たちといると、和むと同時に自責の念にかられる。あの時の久々知は本当に気の毒だったな、と。今でも、それは大それて変わっていない。それなのに、自分と関わろうとしてくれる久々知は、嫌いじゃない。いいやきっと、誰しも嫌いにはなれないだろう。
自分に関わろうとしてくれるのに、気に棘だと思う。全く、本当に。

「何が作りたいんだ?」
「先輩、今日は――」

はじけるような二人の笑顔につられて、紅槻の頬が若干の解れを見せる(といっても、唇の端が三ミリほど曲がったように見えただけだが)。
二人の、細くて白い小さな手を取って、何故か思うは鉢屋だった。

(本当に、なぜあいつなんだろう)

以前に町で見かけた、壱之姫とさして変わらぬ体躯の子どもたち。転がってきたボールを拾ってやったら、素直に喜んだ。
指を切った時に、手当てをしてくれた、保健委員の二年生の川西、委員会で罠の仕組みの教えを乞うて来る後輩たち。
彼らの見せる表情は、本当に温かい。

自分には、まるで関係ないと、思っている。


それなのに、どうして。
どうして、こんなに。


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