* 幸村 *
「あの、幸村さっ、くん!」
見覚えのある人が、珍しく緊張した面持ちで声をかけてきた。
「どうしたの?」
「えっと、その、ご相談がありまして…」
あまり顔色の変わらない彼女の顔色が、こうも簡単に変わる理由を俺は知ってる。
「精市」
「!」
予想していなかった第三者の介入に、小動物がびっくりしたのと同じ反応をした彼女は、少しかわいいと思った。
「地区予選の件で話がある」
そして、蓮二がここで介入してきた理由もわかってる。
「その相談って、蓮二もいて大丈夫?」
なんて、彼女の返事をわかってて聞くんだから、俺もたいがいだな。
予想通り蓮二に聞かれたくないと返事をした彼女の為に、俺は彼女と二人教室を離れた。
「蓮二の話は昼休みに聞くよ。その方がいいんじゃない?」
「…そうだな」
「ふふ、じゃあまた昼休みに」
もちろん、蓮二についてくるなと釘を指して。
廊下を少し進んだところで、耐えきれず笑いだした俺を心配する彼女の声を適当にかわして、本題を聞き出す。正直、何を聞かれるか始めからわかってたから俺はさっきの蓮二を思い出してた。
テニス以外で蓮二の表情をああやって変えるのも目の前の彼女だけなのに、知らないのはお互いばかりなんだから面白いよね。