* 赤葦(ラブコメ) *
歩いているとき、不意に繋いでいた手が強く引かれた。
「あ、ごめん」
どうやら引いたわけではなく、立ち止まったらしい。
「どうかした?」
「えっ、と」
ちらりと游いだ透子の視線を辿ると、そこにはいつかのデートで捕まえたウサギのぬいぐるみがいた。
クリスマス仕様で、サンタの帽子をかぶってる。
「やる?」
「いい」
それはいいって言う人の顔じゃない。
そんなことを言ったら機嫌を損ねるかもしれないから言わないけど、ふてくされた透子もかわいいんだよな。でも今じゃないよな。
「ああ、」
たぶん、男の人がやってるからいいって言ったのかな。あの人は彼女に渡すのか、自分が欲しいのか…前者だと信じよう。じゃないとちょっと見た目年齢的に…
「家にもういるから、大丈夫」
忘れるわけもない前回とった手触りのいいウサギ。
あの時は外に置いてあったけど、今日は室内に置かれているからウサギが逃げ出してもけたたましく鳴いたりしないだろう。
「でも家に一匹だと寂しいんじゃない?」
「私が可愛がってるから大丈夫」
く…そ。想像するだけでかわいすぎる。ウサギを手に入れたときの透子がかわいすぎただけに、家ではもっと気が抜けてかわいい顔してるんじゃなかろうかと思うともうそれだけで耐え難い。
別に変態ではないから。
「もういい。行こう」
急に冷え込んだ今日。今ウサギを取ろうとしてる人が諦める気配もいつまでもゲームセンターの前にいても仕方ないと思ったんだろう。
「本当にいいの?」
「うん」
透子がそう言うなら、いいか。