[追記]
?「うーわ、なにそれ。やっぱりヤバいやつじゃん」 「ハイスペックだけど、やってることはフツーじゃないよね」 「あんなヒーローいないよね」 「敵って言われた方がわかるー」
お昼に花開く噂話のネタは、今日も暴動に近い騒ぎを起こしたたった一人。
「私ねぇ、爆豪ってそんなに悪いやつじゃないと思うんだ」
前から思ってたから事を言ってみれば、みんな意味がわからないって言わんばかりの顔をしてる。
「大丈夫?脅されたの?」 「先生に言ったほうがいいんじゃない?」 「いや、むしろ警察?」
爆豪はさ、かなり頻繁に脅すやつかも知れないけど、それって理不尽ではないんだよ。 相手の事をモブって言うのは、自分より下以下に見てるから。覚える必要もないほどの存在。少なくとも自分は名前のあるキャラクターなんだろうね。それに対して威嚇するのは、己の強さを誇示する為。自分が上であると主張すると同時に、自身の弱さを強制的に認識させてくる。
「まさか好きとかじゃないよね…」 「まさか!ありえないよ」
よく突っかかってるモサモサくん、無個性なんだってね。それなのにヒーローなんて目指してたら、何度死んでも足りないくらい。だから根本からへし折って大人しく守られてろって言いたいんだと思うんだ。 …いや、彼に対してだけは少し歪んでそうだな。でもその他(彼曰くモブ)に対しては、これで概ね合ってると思う。だって危害は加えないじゃん?
「だったらなんでそんな爆豪の肩持つのー?」 「好きしかありえなくない?」 「アレの素行を知ってて好きになるのは趣味悪すぎる」 「言えてるー」
その素行も、あんまり悪くないのはみんな知らないんだろうな。 あんな態度だからガラの悪い友達が多いけど、法は勿論校則に引っかかるようなこともしてない。小耳に挟んだ話だと成績もいいらしい。友達も成績も素行も悪そうなのに、その実逆だなんてどんなコミックだよ。 いっそ学校を爆破してくれるくらい悪いやつだったら私は爆豪の肩を全力で持つよ。嘘だけど。
「そんなことよりさ、今日フラペ飲みに行かない?」 「今なんだっけ?」 「まだチョコじゃない?」 「やば、変わる前に行かないと」 「行くよね」
そうしてこちらを見る三対の目。人間関係はいつだって少しめんどくさい。断ればあることないこと、今の話についても私自身についても、話に花が咲くに違いない。 要するに、選択肢はあるようで存在しない。
「とーぜーん」
私の返事を皮切りに、笑いながら動く三人を追うように、重い腰と鞄を持ち上げる。窓から見下ろした先には、件の少年がダルそうに連れと歩いているのが見えた。
いつか話すことがあるのなら、どうしてこうも生きにくいこの世界で己が自由を謳歌できるのか聞いてみたい。なんて思った。一生、それこそ死んでもそんな機会は訪れないだろうけど。
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