[追記]

自由にならない視界。勝手に流れる景色。感じない匂いや風。音すらも聞こえない。
角を曲がれば小さな子どもが何人も駆け回っていた。似た服装の子が多いけど、中には全く毛色の違う服装の子もいて、ここがどんな場所なのか考察に困る。みんながみんな似た服装だけであれば、幼稚園とかの可能性があったんだけど。その子達は私に気付くと、手を振ったりお辞儀をしたりそれぞれの反応が返ってくる。体が勝手に手を振るなか、よく教育された子達だとぼんやり思った。
きっといいところのご子息ご息女様方なんだろう。そうなると、夢の中の私は先生かなにかをしているんだろうか。一瞬そう思ったけれど、どうやらそうでもないらしい。

呼ばれたように振り返ると、竜胆色をした髪の袴姿の男の人がいた。なにやら連れられるままにその後ろに着いていくと、これまた時代劇で見るようなキッチンに到着した。そこには黒髪に、トロリとした金糸雀色の独眼が妙に印象的な男の人がいた。
きっと献立かなにかの相談で呼ばれたんだろう。声こそ聞こえないけれど、その動作でなんとなく相談されているだろうことはわかる。少ししたらなにか解決したらしく、二人が晴れやかな顔になったのを確認して、私はキッチンを後にした。その時黒髪の男の人から口になにか入れられ、私は感想を言ったらしいが、くらりとする笑顔を向けられてこれが夢でよかったと心底思った。あーんをされた上にイケメンスマイル向けられるとか、そんな願望持ってたのかと恥ずかしくなる。
しかし二人とも背が高い上にお顔も良く、更にはガタイも良さそうに感じるので、キッチンが似合わなかった。いや、本人達が楽しそうだったからいいけど、あと、よく考えると妙に新しいキッチンだった気がする。業務用炊飯器とか、飲食店で見るような寸胴とかがあった気がする。

またもや私の意思とは関係なしに進んでいくと、縁側と言うのだろうか。そこにジャージの似合わない美丈夫がいた。なんと言うか、造形の綺麗な人。
この人ともなにか話していたけど、やっぱり何を言っているのかわからない。夢だしそんなものか。そう思って私自身はぼんやりと目の前の景色を見ていたんだけど、どうやらこの人と目が合ってる気がした。
さっきまでも、私と話しているときはみんな目を見ていた気がするけど、それはあくまで夢の中で対面している姿形のわからない私の目を見ていた。だから私と目が合うことはなかった。それなのに、この人は[私]と目を合わせているように感じる。それが空寒さを増長させる。この人はなんなんだろう。
そう思った瞬間だった。

「皆待っているぞ」

突然聴こえた声に、驚いて目が覚めた。そこは私の、仕事にかまけて少し散らかった、なんの変哲もないいつもの部屋。
なんだったんだろう。初めて見るのにどこか懐かしさを感じるような、妙な夢だった。だからと言って恐怖や不安を感じるものではない、悪夢と言うには優しすぎる不思議な夢。時間は…

「ち、遅刻する…!」

気付けば遅刻ギリギリの時間。今から準備して間に合うだろうか。いや、間に合わせるんだ。それが今の私のするべき事!

そんなことをしていたら、夢のことなんてきれいに忘れていた。



(迎え入れるまであと少し)


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