[追記]

(追記と言う名の本編)
「源氏の重宝、膝丸だ。ここに兄者は来ていないか?」

審神者を初めて一年と少し、今剣に「いわとおしはどこにいるんですかね」といつもより少し寂しそうに告げられて、ここは私が頑張らねばと奮起していたところでこの仕打ちである。
尚、子狐丸に関して聞いてみたら「あやつは野生故、易々とは参らんであろう」とのこと。なんだそれ。

「主殿」

今日の近侍である一期の声が耳を通り抜ける。
そうだ、挨拶をしないといけない。だけど私の喉は使い物にならなかった。聚楽第で、ばんばの本歌である長義が来たのも、要因の一つだろうか。

「申し訳ない事ですが、主殿は少々気が動転しておられるようです」
「構わん」

二人の会話がどこか遠いところのように感じる。こんなんじゃダメなのに、ちゃんとしないといけないのに。誰が来ても、大切な神様であることに代わりないのに。

「…菱の本丸を納める審神者にございます。何卒お力添えのほど、よろしくお願い致します」

自らを叱咤して絞り出した声は、悲しい程に震えていた。

「宜しく頼む」

頭を下げると同時に感じる目眩が、随分と久しぶりのことで思考が霧散する。就任当初とは違うんだから、しゃんとしないと。そう思っても私の体は少しも言うことを聞きやしない。

「一期、膝丸を案内してあげて」
「主殿は如何されますか?」
「まだ書類が残ってるから、それを片付けるよ」
「かしこまりました」

私の霊力が安定してからここに来た一期は、コレを知らないだろう。長義も聚楽第クリアで入手した刀で、コレはなかった。そもそも呼び覚ました時の近侍はばんばだったから、こうなっても一期は預かり知らぬところだ。

最近ムリしてたのかな。そんなつもりはなかったんだけど、沸き上がる吐き気とうすら寒さ、頭の中を血が逆流する感覚、チカチカと暗転を繰り返す視界に私は諦めて膝をついた。
膝丸がきて膝をつくってなんだよ。なんにもおもしろくない。思考回路は正常にとち狂ってるようだ。

提出しないといけない書類、本当にあるんだけどなぁ。そう思いながら私は意識を手放した。


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