はじめて海外に来て、よく分からないけど三月さんに連れられて知らない家に押し込まれた。表札は英語で書いてあって読めなかった。
何の説明もなく、その知らない家に住むことになっていた。

でも、ずっと住むことはなかった。一ヶ月も住まないで他の場所へ。住宅街だったり、ビルの地下だったり。ジェット機、船、車、さまざまな移動手段を使って。
俺は目を回すばっかりだった。

海外なのに俺は日本語しか喋れない。外に出れないし勉強も出来ない、三月さんとは日本語を喋る。本当にここは海外?そんな、変な感じだった。

三月さんとは相変わらずセックスする。でもお金はもらわない。代わりに食事も服も住む場所も全部くれた。どんなものでも与えられる。暇すぎて伸びてる俺に本にテレビにゲームに。

ある日家でごろごろしてたら三月さんが銃を出してカチャカチャ何かしている。そのこと自体ははじめてじゃない。ただ偽物だと思ってたけど違うのかな。弾を詰めているのかな、よくわかんない。そもそも本物?

「それ撃てるんですか」
「ああ…」
「へえ…怖いですね」

銃刀法なんてもののある国に住んでたから、銃が当たり前なのは慣れない。だから、怖い、は素直な感想だった。
次の日から三月さんは銃を俺の前に持ってくることはなくなった。

ぼんやりとテレビを眺めてると、三月さんが帰ってきた。紙袋を持って。
そこにはほかほかのチキンやらパンが入ってる。

まるでヒモみたい。

前までは俺が働いて、三月さんのお金もあったけど自分のお金で暮らしていた。それがなくなった。ただ三月さんが働いて衣食住を俺にくれて、俺は三月さんに抱かれる。

まるで、じゃない。本物のヒモだ。

そうしてある日、発情期が来た。日中はいなかったり、2、3日いなくなったりするのに三月さんは発情期の間ずっといた。仕事は、と息も絶え絶えに尋ねると無視された。
大きなベッドで三月さんとセックスした。うなじがむず痒い。三月さんと番になりたいんだと身体がうるさい。

「おれ…三月さんのヒモになったんです、かね」

番じゃなくてヒモ。
世間体的にはどうなんだろう、って感じの。

三月さんは、多分三月さんって名前じゃない。どんな仕事をしてるかもわからない、なんでこんな移動ばかりなのかも。たまに見かける部下らしき人も知らない。
本当にあの警察の2人が追っている人なのかもしれない。犯罪者、なのかもしれない。多分、そうだ。何をしたんだろう、でも多分一生俺は知らないで生きていくんだろうなあ。

知らなくて良いと思ってる。
だって俺には優しい。お金をくれて、発情期も助けてくれて。三月さんが犯罪者なら俺にとって三月さんは優しい犯罪者。なんなら、優しい人のままだ。

だから三月さんのヒモでいいや、と思ってる。

三月さんは何も言わない。ただ、ふん、と鼻を鳴らして俺の身体を抱きしめた。呼吸の定まらない俺を、弱いオメガを。

それで十分だった。

Fin.

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