「兵藤と言います」

慌てて鍵を開けると、さらりと見せられた手帳。それに思わずおお、と言ってしまった。ドラマみたいだ。すごい。
もう1人は外国人だ。白人ってだいたい格好良く見えるのは何で何だろう。不思議だ。え、てか外国人の警察官っているのか?見たことないけど。

「彼はエイドです。実はとある人物を探していまして、この辺の聞き取り調査をしているのですが、ご協力頂けますか?」

にこり、と笑う兵藤に何となく威圧感を感じる。さすが警察なのか。こくこくと頷くと胸元からガサゴソとプリントされた紙を出される。
遠くに写る男の人の顔をめいいっぱいに引き伸ばしたもので、その写真を見つめて首を傾げる。
うーん、三月さんに似ているような?似ていないような。
場所自体がどこかの路地裏のようで薄暗いのもあって、三月さんに見えるけど見えない。何とも言えない。

三月さんみたいにイケメンなのはわかるし、あんまり目つきがよくないのも似てる。でもそれくらいと言ったらそれくらいだ。

もし、これが三月さんだとして、それなら三月さんは警察に追われてることになる。じゃあ、三月さんは犯罪者なのか。でも優しいし、お金もくれるし。

「どこかで見たこと、ありますか?」

黙り込んだ俺に、知ってること全部吐けとでも言わんばかりに詰め寄られる。外人の人もにこにこしながら、逃げ場はないとでも言わんばかりに仁王立ち。

「…知り合いに似てるような気がしただけで…」
「その方の名前と、どのようなご関係ですか?写真などはありますか?」

怒涛のような質問攻めに俺は思わず後ずさりした。警官は踏み込んできて、玄関まで侵入してきた。えっ、ええ?

「名前は、三月さんとしか…写真はなくて、関係…?」

セフレ?でもお金もらってるから…援助交際?20歳過ぎた男が?そう思うとやばいけど。
なんだか言いづらい関係だ。

「ご関係は」
「え、援助交際です…!」

ああもう視線が痛い。お互い成人だし問題はないけど、好まれるものではないのも分かっている。オメガだから援助されて生きるしかない、なんてことはないのだから。

「お金はどれくらいもらいましたか」
「たくさん…ええと、30、40万…?くらいかな」
「なるほど」

そう言うと、俺と話していた警官の人は外人の警官とぺらぺら英語で話し始める。なんて言われているのか、知りたいようで知りたくない。

「分かりました、ご協力ありがとうございます」

ぺこり、と頭を下げられた。
何も追求されなかったことにホッとしながらも、あっさり身を引いたことから写真の人は三月さんではなかったみたいだ。もしそうなら住所とかもっと細かいことを聞かれるだろうし。

よかった、やっぱり三月さんは良い人なんだ。

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