家に着くとようやく一息つけた。
汚れた安いアパートでもこんなにも安心するのかと不思議な気持ちになる。

怒涛の数日間は、どこを思い返しても三月さんに抱き潰されてあらぬことを口走って、思考が荒波に攫われてばかりだった。
三月さんのようなお金持ちの大人のアルファは、セフレ相手にも責任持ってくれるのだと俺は感激した。正直孕んだと分かった瞬間に捨てられるだろうと思ったから。

あーでも、これから捨てられるとかもあるのかな。やっぱり面倒だって、ぽいって、紙くずをゴミ箱に投げるように。
それはちょっとやだなあって思うし。でも貧乏すぎてお金に目が眩んだ人間だし仕方ないかもしれない。

「気持ち良かったなあ…」

夢のような時間だった。いつもは辛いだけなのに、全身が震えるほどに気持ち良くて、満たされて。何を言ったかほとんど覚えてないけど、頸を晒して俺を番にしてほしい、なんて思った気もする。

それから、そういえば、と携帯を見ると馬鹿みたいにバイト先から連絡が来ていた。そりゃあバイトから急に無断で早退して、うっかり入れといたシフトにも来ないと来た。

「またクビだなあ…」

オメガだから仕方ないのか。でも皆が皆俺のようなオメガばかりではない。アルファ並みに働く人もいる。
そういう人たちは皆、抑制剤を定期的に取っている。でも抑制剤は安くない、俺は食事のが大事だから抑制剤はある時とない時がどうしてもある。

悪循環なんだと思う。

でも今は三月さんのおかげで潤ってる。お金って偉大だ、俺はしみじみそう感じて、とりあえず新しいバイト先を探そうと思った。
けど疲れたから寝ようかな、なんて自堕落なこもを思った時普段は鳴らないインターホンが鳴り響いた。

なんだろう、大家さんかな。でも家賃払ったし。思い当たることはないようなあるような。何だかんだギリギリな生活してたから。
ずき、と痛む腰に顔を歪めて、でもドキドキしながら、おそるおそる玄関の小さな覗き穴を覗くと。

え、…警察?
街で見かける濃いブルーの制服に俺はぎょっとした。

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