「やはり覚えてない人が多いですね」

兵藤とエイドの2人は3日前の目撃情報を、今朝渡され朝から薄暗い路地裏を何度も往復していた。
その映像の一部の写真を精一杯引き伸ばして持ち歩いているが、今の所有力な情報はない。すでに元の映像は消されていたらしく、次のカメラ映像があっても2人のもとに届く前に消されてしまうだろう。

映った男は、前の時と同じように歩いていて、路地裏の奥へと消えていく。

わざわざ路地裏のしかも、カメラが置いてある場所を通る。前回と同じように通らざるを得ない理由があるとエイドは考えていた。

「…やっぱり、この時の彼は急いでいたように見えるね」
「そうですか…?」
「このカメラに映って、3秒後に奥の角を曲がってるだろう?さっき歩いた時は結構長い距離だったし、いつもより早足だったと思うんだよね」

カメラの角度は、路地裏を真っ直ぐ映していて奥行き感が強い。そう言われたらそうかも、と曖昧に頷いた兵藤。

「彼らは歩く速度も常に一定だし、動じないように鍛えられてるものなんだよ。でもそれを崩すような何かがあるんだ、この町に」

それは何か。
切れ者のエイドはまだその答えに至ってない。
喧騒な異国の町にあって、彼らの支配下にないもの。

顎に手をあてたまま黙り込んだエイド。兵藤は一方で路地裏の地図を睨みつける。
2人で、印をつけた場所は全て行った。あと残っているのはあの男は行かないだろうと思われる場所。監視カメラのついた店ばかりだ。
危険を冒すことなく任務を遂行する男たちにとって証拠が1つでもあることは良いことではない。力を使ってでも握りつぶすが、そもそも証拠を残さないことに越したことはない。

「…あの男にとっての特別なものがあるなら、やっぱりいつもと違う場所を選んでいる可能性もありますよね」
「そうかなあ…」
「印のないとこも行ってみましょう。何かあるかもしれません」

次はもう証拠は出ないかもしれない。そうなればここまで目の前に来た獲物をみすみす逃すのだ。
藁にもすがる思いでエイドは頷いた。

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