発情期にもある程度の周期がある。
その周期を知っておくことは大切だし、オメガにはかかせない。何の準備もなしに発情期になれば全く知らないベーダやアルファに襲われることになるからだ。
ガサツな俺でも周期だけはメモしてる。でも、女性の生理と同じようにその周期は常に守られるわけじゃない。

コンビニ弁当を温めながら、俺も急な体温の上昇に思わず手が止まる。発情期はもう少しとはいえあと一週間は余裕があると思ってた。
なんで早まったんだろう。
今までそんなことはなかったのに。

「ねえ、もう温め終わってるだろ!」
「あ、あっ…すいません、お待たせしました」
「早くしろよな」

温め終わったのに取り出さない俺に焦れたお客さんが怒鳴った。ただでさえ混んでいるのだった。
ぺこぺこ頭を下げながら、お釣りを渡して次のお客さんが来る前にレジ停止のボードを出す。次の順番だったおばさんは明らかにムッとした顔をしてる。

慌てて引っ込んで、店の奥にいる店長を探す。
身体が暑い。抑制剤は持ってきてないから早く帰らなきゃ、フェロモン垂れ流しのままこの街を歩く羽目になる。
それだけはまずい。

一度ロッカー室に入って着替え終わる。店長がこのまま見つからなかったら無断で帰ってしまおう。
結局走り回っても店長はいなくて、俺は裏口から飛び出した。なるべく人気の少ない路地を早歩きして行く。家まで10分はかかる。誰にも捕まらないで逃げなきゃいけない。

貧乏で残念な俺でもその辺のβやαを狂わせるフェロモンが出てる。そしてこの国の大半はβだ。
Ωが発情期の状態で襲われても、βやαが罪に問われることは殆どない。彼らは本能に従うしかないのだ。

こんな性別捨ててしまいたかった。

ゴミが散乱した路地を早歩きで歩く。不意に前方で道を塞ぐように立ち塞がる影を見て、ぞわ、とした。
やばい。

「可愛い子ちゃん、そんな良い匂いさせてどこ行くんだい」

ヒゲの剃ってない、歯が変色した男。βだ。
最悪、と進行方向を変えたが更にその先にも男が1人、こちらをにやにやしながら見ている。

「そんな状態じゃぁ、可哀想だからね。俺たちが優しく相手してあげるよ」

最悪だ。最悪、どうしよう。
道を塞ぐ2人がどんどん迫ってくる。四面楚歌、逃げる場所がない。

誰か助けて。

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