「こりゃあキリがないな」

エイドは監視カメラに映った男の情報を探していたが、そもそも一ヶ月前の出来事だったためその区間で働く人々の情報はアテにならなかった。
エイドや兵藤からしたらあれほど怪しく存在感のある男だからもし何処かの建物に入って入れば誰かしら覚えているだろう、と考えていた。それは甘かったようだ。

努力は未だ実を結ばない。
暑い日にも関わらずしっかりスーツを着込んだ2人は日陰でうちわを仰いでいた。日が経てば経つほど記憶はあっという間に薄れていく。休む暇があれば足を動かしたいところだが、その足が動かない。
照りつける太陽とむんむんとした熱気にやられていた。

額に浮かぶ汗をハンカチで拭い、兵藤はため息をついた。

「本当に誰も見てないんですかね」
「私が見た限りでは嘘をついているような人間はいなかったな。隠し立てをしているようにもーーー…ああ、クスリをやっていることを隠してるのはいたが、それは範囲外だしね」

エイドと兵藤は、この国で調査をするにあたりとあるものを用意していた。
偽の警察手帳だ。2人は刑事のフリをしていた。
巧妙に作られたそれを、普段は見ることのないような一般市民からしたら本物かなんて区別はつかない。簡単に信じていた。
警察手帳があれば調査をしていることに何の違和感もない。

それを見たクスリ常習者は露骨に動揺し、視線をウロウロとさせ貧乏ゆすりまでしていた。いかにもという感じであったが、2人が求めているのはそれではない。警察に突き出したら自分たちも厄介なことになる。

「暑すぎで死にそうですよ…はあ」
「死にはしないだろう。前に砂漠に行った時は死にかけたけどね」
「そうでしたね…」

エイドは唸りながら、男の歩いただろう歩道を見つめた。オフィスビル、アパートにコンビニやレストラン。よくある店ばかり。
一体どこに用があったのか。切れ者と言われるエイドにも思い浮かばない。

兵藤は完全にお手上げだった。警察と知るなり無駄に探りを入れてくる市民に疲れたらしい。いつもは簡単にエイドが流してくれるが、エイドは日本語を喋れない。2人は英語を交わしているが、話を聞くのは兵藤だけ。その話を兵藤がエイドに伝えるを繰り返していた。
おかげでどっと疲れている様子だった。

「そうだねえ、あと数日は調べてみないと。とりあえずここは一度やめて、奴の好みそうなバーにでも行って見るか」
「あー、良いですね」
「…私たちは仕事中だし、警察なんだから酒は飲まないからね」

方向性を変えることにした2人は、暑さと陽射しから逃げるように路地の奥へと消えて行った。

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