よく面倒を見てもらっていて、いわゆる保護者的存在であるイタチさんに名前を呼ばれて駆け寄ってみると、彼の口から衝撃の一言が出てきた。
「サソリさんとの交際は認めない」
朱に染まった瞳で私の目をじっと見つめる。幻術をかけてはいないようだが、整った顔に見つめられている為か、変な感じがする。
今日は任務が当てられてなく、イタチさんに体術の修行をつけてもらおうと考えていたところだった。だがこれでは修行どころではない。
不意に誰かのため息が聞こえたかと思うと、鈍い音と共にイタチさんの頭が下を向いた。
「いい加減認めろよ」
イタチさんの後ろに呆れた顔をしたサソリが立っている。どうやら彼はイタチさんの後頭部を思い切り叩いたようだ。
「痛いですよ」
「そりゃそうだ。痛くしたんだからな」
叩かれた後頭部を片手で押さえ、ゆっくりと後ろを振り返った。しばらく冷ややかな視線を向け合う二人。周囲の温度が二、三度下がったように感じる。
私に背中を向けている彼から隙を狙っていると、不意に彼から名前を呼ばれた。
「話し合うべきだな」
「おいおい、何回話し合ったと思ってんだ」
私が答える前にサソリが面倒くさそうな声を出す。
確かにそうだ。いつもイタチさんから話を持ち出し三人で話し合うのだが、何故か途中でイタチさんが瞬身で消えてしまう。無駄なチャクラを消費するなと口がすっぱくなるまで私に教えたのは彼だと言うのに。
「イタチさん、瞬身で逃げるのは無しですからね」
「…分かっている。努力はしよう」
「単刀直入に聞きますが、ウチの子を幸せにできますか?」
「当たり前だろ。てめぇよか幸せにしてやれるぜ」
「…この人は駄目だ」
ガシッと私の両肩を掴み、鬼のような形相を近付ける。今の台詞のどこに駄目な要素があるというのだろうか。
「自意識過剰にも程がある。俺のところにいた方がいい」
「お前も十分自意識過剰じゃねぇか」
「嫁になんていくな」
「聞けよ」
私の両肩をガクガクと揺さぶるイタチさんと、それを呆れた溜め息をつきながら見ているサソリ。なんだか色んな意味で頭が痛くなってきた。
「イタチそこまでにしといてやれよ。お前が親バカなのは分かった。だがな考えてみろ、保護者的立場であるお前と恋人関係である俺。明らかに俺の方が優位だ。違うか?」
肩を揺さぶる手がピタリと止まる。
「お言葉ですがサソリさん。たかが恋人ですよ。それに比べ俺は家族のようなものです。普通なら恋人より家族を優先するものだと思っているのですが」
サソリの眉間に深い皺が刻まれた。綺麗な顔が一瞬にして般若へと変わる。
「そりゃてめえの勝手な思い込みだろ。あと何回言わせんだ、こいつはお前の娘じゃない。俺と交際しようが結婚して子ども授かろうが、他人にとやかく言われる筋合いはねぇな」
「サソリ、あまりイタチさんを煽ると…」
「この子が暁に来たとき誰が一番面倒見ていたと思っているんですか。俺ですよね。チャクラの練り方や体術を教えたのも俺ですよね。言わせていただきますが、」
つらつらと言葉を並べるイタチさんの口を手で塞ぐ。彼は目を細め、塞いでいる私の手を掴んだ。
「私はもう子どもじゃないですよ…いだだだだだだだ」
続きを言おうとすると掴まれている手に力が入り、骨がミシミシと悲鳴をあげる。女相手に物凄い力だ。
「俺の口を塞ごうとは二十年早いぞ」
「…ちっ、それで結局どうなんだ?」
うんざりした口調でイタチさんの手を叩き落とすサソリ。掴まれていた手は血の気をなくし、真っ白だった。
「………」
ドロンという音とともに目の前からイタチさんが消える。サソリは再度舌打ちをし、彼がいた空間をじっと見つめた。
「そろそろ結婚するか」
私の頭に手を乗せながら乱暴に撫でる。朝、梳かした髪の毛がぐしゃぐしゃになってもお構い無しだ。
嗚呼、もう少し雰囲気があるときにこの言葉を言って欲しかった。
(120110)