「では、次の段落の音読をお願いします」
先生に示されてぎこちない動きで立ち上がる背中に向けて小声で「がんばれ」と言えば、安心したように肩の力を抜いた。おじさんもう来てるのかな。いいところ見せろよ!
緊張していたあいつの音読は無事に読み終わり、授業もテンポよく進んだ。終了のチャイムが鳴り、先生が終わりの号令を告げると教室が一気に騒ぎ出す。
「音読うまかったぜ!」
「ありがとうオビト!ちょっと緊張したけど、ちゃんと読めてよかった…!」
「上手だったぞ」
ぬっ、といきなりおじさんの顔が廊下側の窓から出てきた。窓のすぐ横が席のオレたちはビクッと肩を揺らす。心臓がとまるかと思った。
「おじさん帰ったんじゃないのか?」
「たまには残ってもいいだろう。そろそろ帰るが」
「あ、あの、オビトのおじさん、こんにちは」
「こんにちは。何度も言うが音読上手だったぞ。あと、これからもオビトと遊んでやってくれ」
最後に付け足しみたいに言うなよ。
「はい!」
「またウチに来てもいいしな」
「わかったわかった、連れて来るって。心配すんなよジジイ」
「悪いな、年を取ると心配性になるんだ」
おじさんは小さく笑うと廊下へ消えた。隣を見れば顔を真っ赤にしているトモダチ。あーあ、笑った顔にやられたんだな。
(150619)
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