玄関には男物の靴が3足きちんと並べてあった。女物や子どもの靴は見当たらない。きっと外出中なのだろう。
靴を脱いでいると誰かが階段を降りてくる音とともに声が聞こえた。
「帰ったか」
その後すぐに別の男の人の声がする。
「俺の仮面知らないか?」
そして更に奥の部屋の方から食器の擦れる音と声が飛んできた。
「団子食べるぞ」
マダラおじさんは浅くため息をついて、結った髪を解きながら口を開く。
「サスケ、おかえりくらい言え。オビト、お前の趣味の悪い面は洗面台だ。イタチ、団子は明日にしろ」
うんざりとした口調のマダラおじさんの隣で私はただ、階段から降りてきた人物を見ていた。
「…サスケくん?」
「ナマエ?なんでここに」
いとこのサスケくんだった。彼とは盆と正月に行われるうちは家の集まりで会ってはよく遊んでいた。同い年だからか、他の子と比べて一番仲が良かったかもしれない。最後に会ったのは去年の正月。昔の彼からは想像もできないくらいにクールになっていて、話しかけても素っ気ない返事しかもらえなかったのを覚えている。兄のイタチさんの方がよく喋ってくれた。
ここで先ほどマダラおじさんが呼んだ名前を思い出す。イタチ、オビト…。
「…ナマエ。久しぶりだな」
足音と共に声をかけられる。そこには昔からなに一つ変わらない笑顔を向けてくれるイタチさん。思わぬ再会に頬が緩むのがわかった。
「お、ナマエか。俺のこと覚えてるか?」
「えっと、オビト兄さん?」
右手にオレンジ色の何かを持ち、笑いかけてくれたのはオビト兄さんだった。私の我が儘に付き合ってくれて遊んでくれたのを覚えている。随分と見ないうちに年を重ねたんだ…と少し失礼なことを考えてしまった。
「玄関だと居づらいだろう。サスケ、空き部屋に案内してやれ。荷物を置いて来るといい」
おじさんがそう言うと、サスケくんが私のカバンを自然な動きで手に取った。それに困惑していると小さな声で「来い」とだけ言って階段を登り始める。
「今日は馳走だ。オビト、イタチ、手伝え」
下の方でそんな声が聞こえた。
案内された部屋は洋室のようになっていて、可愛らしいカーテンやベッド、机が置いてあった。
「マダラのやつ、ここまで準備していたのか」
「ここって、おじさんの娘さんの部屋?」
そう問うと、サスケくんは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。
「マダラに娘なんかいない、結婚もしてない。お前のために用意したんだ」
頭にクエスチョンマークが次々と浮かび上がる。私のためにわざわざ、この部屋を用意したのだろうか。以前からおじさんが私に甘いような気はしていたが、ここまでとは思っていなかった。申し訳なくなってくる。
「隣が俺の部屋で、向かいが兄さんとオビトの部屋だ。ちなみにマダラの部屋は一階にある」
部屋のドアを開けて、向かい側のドアを指差しながら説明してくれた。「教えてくれてありがとう」と言うと、彼は私を頭から足先まで眺める。
「喪服は窮屈じゃないか?部屋着なら貸してやれるぜ」
持っていた私のカバンを床に置くと部屋を出て行くサスケくん。引き止めようと向けられた背中に声をかけたが無意味だった。
しばらくして、布を抱えたサスケくんが戻ってきた。
「ちょっとデカいかもしれねーけど…。着替えたら下まで来い」
「あ、ありがとう」
布を受け取ると彼は小さく笑い、ドアを閉めて階段を降りて行った。
(150531)
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