「…ちゃん、かわいそうに。ご両親、即死らしいわ」

「これからどうするのかしら」

「確か祖父母はもういないって話よ」

喪服に身を包み小声で話す親戚たち。彼女たちの言う通り、私は身寄りがなくなってしまった。
不慮の事故で両親が他界。幸いにも遺産はある。それが意味するのは、これから一人で生きて行くということだ。
火葬を終え、集まった親戚たちが帰ろうとしていた。すると入り口の自動ドアが開いた。漆黒の長い髪を後ろで括り、すらりと背の高い男が入ってきた。途端、火葬場にざわめきが起こる。
その男は辺りを見渡し、私に目を留めた。ゆっくりと歩み寄ってくる。

「久しいな、ナマエ」

柔らかく微笑む顔には覚えがあった。
昔よく遊んでもらった…

「マダラ、おじさん…?」

「遅くなってすまない。…おい!お前らまだ帰るな」

そそくさとでて行こうとする親戚たちが、まるで石になったように動きを止める。マダラおじさんは私の肩に手をおいて口を開いた。

「本日よりうちはナマエは、このうちはマダラが引き受ける。いらぬ心配はせんでよい。異論があるものは前に進み出よ」

水を打ったように静まる火葬場。親戚たちの目は驚きで見開かれている。
私はわけが分からず、毅然としているマダラおじさんの顔を見上げた。

「…ないな。引き止めて悪かった。以上だ」

緊張の糸が解かれ、動き出す彼ら。もう二度と会うことはないだろう。離れていく黒い背中を見ながら思った。

「今日から俺がお前の家族だ。家に帰るぞ」

「……」

「心配ない、諸々の手続きは既に済ませている」

「……」

「どうした。口が聞けないのか?」

「こ、これから一人でやっていくとばかり…。あのなんで、おじさんが…?」

「可愛いお前をみすみす放っておく俺ではない」

遺骨の入った骨壷を一つ、大事そうに抱えて振り向く。次いで私も骨壷を抱えた。

「後は全て俺に任せろ。外に車が止めてある、行くぞ」

火葬場を後にし、車に乗り込んだ。


「これから俺の家で暮らすことになるが、その前にナマエにいくつか言わなければならないことがある」

後部座席に乗った私にバックミラー越しで目を合わせながら言った。きっと厳しい規則なのだろう。心して聞かねば。

「高校だが、家の近くの私立高校に転入する手筈になっている。なに、試験の心配はするな」

「ありがとうございます」

バックミラーに写ったマダラおじさんが小さく笑う。彼の笑顔を見ているとなんだか心が落ち着く気がした。

「あとは、俺の家には他に住んでいる者がいる。皆いい奴だからな、すぐに馴染めるだろう」

ということは、妻子持ちなのだろうか。こんな男前でスタイル抜群な人に奥さんがいない方がおかしい。そこに今から住めと…?うまくやれるか不安だ。
それが顔に出ていたのか、おじさんが笑いながら口を開く。

「そう身構えるな、どいつも遠い親戚だ。それに身内には甘い奴らだし、それを抜きにしてもお前を傷つけるようなことはしない」

彼がここまで言うのだから心配はいらない、そう思った私は全身の力を抜いてシートに身を預けた。と同時にふと、疑問が頭をよぎる。

「おじさん、火葬場で親戚の人たちがあんな態度をとったのはどうしてですか?」

彼が現れた途端、ざわめき出した親戚たち。それが不思議でならない。

「俺がうちは家の当主だからじゃないか?」

耳を疑った。私もうちは家である。そのご当主がまさかこの人だったとは…。小さい頃よく遊んでもらっていたが、こんなすごい人だとは思っていなかった。
今まで知らなかったが、そう言われると確かにいつもうちに来る時は立派な車に手土産は欠かさなかったし、父も母も玄関まで出迎えて一礼していたような…と色々考えていたら車が停まった。

「着いたぞ」

窓の外には大きな純和風のお屋敷。表札にはうちはと達筆で書かれている。
おじさんと骨壷を抱え二人で門の前に立つ。

「あまり硬くなるな」

門をくぐりながら私の顔を見て微笑む。その笑顔があまりにも素敵で不覚にもドキッとしてしまった。

「さて、帰ろうか。我が家に」


(140213)

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