とある空港。
雑踏や人の声で賑わう中、二人とも笑顔で手を振り、搭乗口へと入って行った。私はそんな二人を見えなくなるまで見送った。
私の隣にはサソリさん。ちなみに言うと、昨日はろくに彼と会話をしていない。

「名前」

「はいっ」

いきなり名前を呼ばれ、声が裏返ってしまった。穴に入りたいほどに恥ずかしい。
私は恥ずかしさのあまり、ひきつった笑みを浮かべた。するとサソリさんは喉で笑う。

「そんな緊張すんな。何もしねえよ」

「それは承知なのですが…サソ兄、じゃない、サソリさんに会うのが本当に久しぶりでどうすればいいのか…」

「おい」

「はいすみません」

「敬語を使うな、さんもいらねえ」

「え、でもそれは…」

「返事は“はい”だ」

そう言って歩き出す。
私はサソリさんの一歩後ろを歩きながら考えた。年上の人に砕けた話し方だなんてできない。しかもさん付けはせず、呼び捨てで呼べと。
頭がぐるぐると回転しているような気分だ。気持ち悪い。

「…大丈夫か」

車の鍵を指でクルクル回しながらサソリさんが振り向く。帰りは彼の運転する車に乗るのか…。絶対、後部座席に乗ろう。そうすれば会話をしなくて済む。
だがこれは甘い考えだった。

互いに何も話さぬまま、駐車場へと着いた。様々な車が並ぶ中、いつも父が使っている愛車を見付ける。

「前に乗れ」

後部座席のドアを手に掛けようとしたらサソリさんの声が飛んできた。

「…後ろが良いです」

「何度も言わせるな、前に乗れ」

有無を言わせない言い方だった。これは前に乗るしかない、そう悟る。しかし、こんなに綺麗な人が運転する隣に座るのは気が引ける。どうしたものか。
結局、物凄い目で睨まれてしぶしぶ助手席に座ることになった。
駐車場を出て、最初の赤信号に止まったとき、何を話せばいいのか分からない気まずい雰囲気の中でサソリさんが切り出す。

「避けてんだろ、俺のこと」

確かにそうだ。何年も会っていないいとこ相手に馴れ馴れしく接するなんて自分には不可能である。横目で運転している彼を見れば、前を向いたままだった。

「気は使うな。俺も使わない。あとな、敬語使うなって言ってんだろ」

「はいいい!」

ぐるりとこちらを向き、私と視線を合わせる。
なんとかせねば。この空気をなんとかせねば。敬語を使うなとサソリさんは好意で言ったのだろう。だが、少し言い方が厳しい。空気が重く感じる。
もうこれしかない。使いたくはなかったが、最後の手段だ。

「夕飯の食材を買いにスーパーに寄ってくだ…寄って欲しいな」

信号が青になる。隣の彼を見ると薄く笑っているような気がした。
そういえばサソリさんは一体どこに住んでいるのだろう。


(110902)
(150517)加筆修正
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -