着流しに着替えたデイダラが草原に座って粘土を捏ね始める。いつもの髷ではなく、長い金髪は背中に無造作に垂らされていた。

「デイダラは粘土造型師かなにか?」

「おう。岩隠れじゃ名は通ってたぜ」

手を器用に使って粘土を形作る姿は真剣そのものだ。私はトビと彼の創作活動を眺めながらクナイや手裏剣を磨く。隣の仮面は私が磨いた忍具を綺麗に並べている。

「すごいな…。その指先どうなってるんだ?凡人じゃ無理だな」

「そうそう、なまえくん知ってます?デイダラ先輩って掌に口があるんですよ」

鋭く光るクナイの刃に指を滑らせながら愉快そうにトビが言った。デイダラは集中しているのか、こちらを振り向かない。

「口?どうなってんだ?」

「あれ?デイダラ先輩の面白ビックリな個性知らないっスか?」

掌に口があることを個性と言うのだろうか。磨き終わった忍具をしまいながらトビの仮面を見る。彼は首を傾げた。可愛いのか可愛くないのか判断に困る仕草だ。

「蜘蛛っぽいのがよく爆発してません?アレっスよ。起爆粘土っていうんです」

「ああ、アレか。…というか、トビ。俺はお前より後輩だから敬語はナシでいいぞ?」

「も〜なまえくんったら!そんなこと言われちゃうと心許しちゃいますよ!きゃっ、言っちゃった!どうしよう僕。これじゃあなまえくんに恋してるみたい。僕には心に決めたオンナノコがいるのに!」

仮面を両手で覆ってぶんぶんと首を振る。どこから突っ込んだらいいのか分からない。しまいにはくねくねと体を動かしだすトビ。かける言葉が全く見つからない。どうしたものか。

「…えっと、トビは好きな女の子がいるんだな。どんな子?ベタに団子屋の娘さんとか?」

「えぇっ?!聞いちゃうの?聞いちゃうの?僕は口硬いですよ〜。聞き出すには骨が折れますよ?もしかしてなまえくんって…僕にホの字?!ハハハ、僕はそう簡単に靡きませんよ」

今しがた磨いたクナイで刺してやりたい。そんな衝動に駆られた。何故好きな女の子を聞いただけでこちらが脈ありだと結論づけることができるのだろうか。

「デイダラ、こいつはいつもこんな感じなのか?」

黙々と制作をしている金髪に問う。問われた彼は振り返ると同情にも似た視線をこちらへ向けた。そして息を吐く。

「おいトビ。どうでもいいことベラベラ喋ってんじゃねーぞ」

「ひどい!デイダラさんひどい!まるで僕が迷惑をかけているみたいっスよ!親睦を深めているだけなのに!」

その場にしゃがみ込んでおいおいと泣き真似をする。忙しいやつだな。デイダラは再び背を向け作品を次々と作っていく。しばらく泣いているフリのトビを見ていると、ぴたりと泣き声が止まった。

「…忍は敵に成る丈、本性を隠し通すことが良しとされてます。君はそういうの、得意なんスね」

しゃがみ込んだまま、顔を上げる。仮面の穴の奥が一瞬赤く光った気がした。

「いやぁー危うく騙されるところでした!」

立ち上がって私の頭を手袋が嵌められた手で撫でた。思わず手を払い除けて後ろへ飛び、距離を取る。トビは行き場をなくした手をひらひらとさせた。

「あっ、ごめん…つい」

「うーん…嫌われちゃったかなぁ?ってか、デイダラさーん!なんで黙ってたんですか?」

「あぁん?何をだよ、うん」

背を向けたまま不機嫌そうに返事をする。彼の傍らには几帳面に並べられた粘土細工。綺麗な曲線を描いているそれは可愛らしく見えた。

「なまえくんじゃなくてなまえちゃんじゃないですか!」

「そりゃ間違えたお前が悪い。ちゃんと謝っとけよ。なまえ、追加の粘土を頼む」

私は先ほどトビが両腕いっぱいに抱えていた粘土を適量取り、デイダラの隣に投げた。我ながら抜群のコントロールだ。次にトビに向き直った。

「あーあ。なんだ、気づいちゃったの?」

「男の子、なんて言っちゃってすみません。でも一目見た時は本当にわからなかったっスよ!」

「どうも。昔、やれ任務のためだ、男に舐められるなでしごかれていたからね」

「へぇぇ」

「ところで、デイダラの創作活動っていつもこんな感じなの?」

助手に任命されたが、先ほどから粘土を投げることしかしていない。

「これからが本番ですよ」

声を潜めるトビに内心首を傾げる。これから何が起こるのだろうか。「よし、いくぞ!」嬉しさを含んだ低音が響く。

「喝!」

途端、凄まじい音が鼓膜を振動させた。私は何が起こったか分からずその場に立ち尽くしていた。

「ド派手ですねぇ。これがデイダラ先輩の創作活動ってやつです。巻き込まれたら最後っスよ。…こっちです」

腕を掴まれ、側にある木の上に引っ張られる。上から見ると何が起こっているのか把握できた。デイダラがつくった作品たちが次々と爆発している。…もったいない。

「芸術は爆発だぁああ!!」

狂ったように叫ぶ男を見て私とトビは同時にため息を付いた。

「トビ、君はこんな先輩についてるなんて偉いね」

「ホントもう、なまえちゃんに慰めてもらいたいくらい…」

「さり気なく抱きつかないでね」

「いけずぅ!」

本性を隠し通しているのはこのぐるぐる仮面の方なのではないか。



(140117)


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