不味い、敵か。
そう身構えた時、ふと気付いた。いま自分は暁のコートを着ていないことに。まだ暁に入って一日しか経っていない。木の葉の暗殺リストには載っているだろうが、暁として全国に指名手配されるまでにはなってない筈だ。
砂の忍は動く気配がない。殺気も飛ばしてこない。逃げるが勝ちと言うがここで逃げてしまうと怪しまれて追いかけてくるかもしれない。生憎リーダーとの通信は切れてしまっている。

「…俺を忘れたのか」

くぐもった声が発せられた。しかし、こもった声を聞いただけで人物は特定できない。誰なのだろうか、この忍は。

「すみませんが、どちら様ですか」

恐る恐る問うと忍は喉で笑った。意味が分からない。砂の友人には顔にペイントをしている傀儡師くらいしかいなかった筈だ。あとはその姉と弟。
忍は顔を覆っている砂避けの布に手をかけ、ゆっくりと取った。

「え」

「んだよその顔。惚れたか?」

「惚れはしません。まさかサソリさんだったとは…」

「たまには変化くらいしねぇと鈍るからな」

砂避けの下には燃えるような赤毛と透き通った肌、長い睫毛に高い鼻、形のよい唇という精巧な人形のような顔立ちがあった。しかし何だか違和感を覚える。

「老けましたか?…いたっ」

「この小娘が。年相応に見えるよう変化したんだよ」

バシンと頭を叩かれる。手加減はしてくれなかったようで結構痛い。私は叩かれた頭をさすりながら年相応の姿に変化しているというサソリさんを見た。色気が増して無駄にフェロモンを撒き散らしているような気がする。

「色っぽいですね」

「へぇ」

「近寄るだけで妊娠しそうです」

「小娘を孕ませるほど飢えちゃいねぇよ」

「サソリさん見た目は凄い飢えてる感じですよ。どんな女でも良いから取りあえず性欲処理したいって顔してます」

「随分と口が達者だな。その女の中にお前は入っていないのか」

「有り得ませんね」

はっきり言うとサソリさんはため息を吐きながら砂避けの布を頭に被る。そして私の腹部に片腕を回し、ひょいと担ぎ上げた。リーダーに拉致された時と同じような担ぎ方だ。

「そら帰るぜ、お騒がせ娘」

「だからって何で担ぐんですか」

「そうか姫抱きがいいのか」

「ごめんなさいこのままでいいです」

本当にされそうな雰囲気だ。こんな綺麗なおっさんに横抱きなんてされたら頭がおかしくなること間違い無しだ。
横抱きを姫抱きと言う辺りが彼の色っぽさを最大に表しているように思える。


サソリさんが駆け出す。周りの木々が次々に後ろへとすっ飛んでいく。

「お前のせいでめんどくせぇ事になってるんだからな」

「兄さんが何かしたんですか」

「見れば分かる」

そう言ったきりサソリさんはしゃべらなくなった。走るスピードは先ほどより速くなっている。私はふと一つ疑問に思い、舌を噛まないように気を付けながらサソリさんに話しかける。

「何でその姿に変化したんですか。敵かと思って驚きましたよ」

「さっきも言ったろ。たまに変化くらいしねぇと鈍るんだよ」

「いやそうではなくて。何で年相応に変化したんですか」

サソリさんはうーん、とすこし考えて担いでいる私の体を自身の胸板に押し付けるようにして持ち直す。
所謂、横抱きだ。

「お前が俺に惚れちまえばいいかなって」

「横抱きだけはやめてください」

「まぁ嘘だが」

「私の話聞いてます?」

その後、暴れても文句を言っても横抱きのままだった。なんて羞恥プレイだ。


遂にアジトに辿り着いた。だがサソリさんは私を抱いたまま。下ろそうとする素振りすら見せない。

「あの。そろそろ下ろし、」

「旦那になまえ、やっと帰っ…!?」

ひょっこり顔を覗かせたデイダラ。次の瞬間、彼が手に持っている粘土が地に落ちる。そしてアジト内に悲鳴に似た叫び声が響いた。



(110912)
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