広間に近付くにつれ、美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐる。ここは本当に犯罪組織なのか。
隣で歩いている兄さんから「団子はあるのか」と呟きが聞こえる。団子好きなのは昔から変わっていないようだ。こんな男が犯罪者だなんてどこの笑い話だ。
「兄さん、暁って…」
ふと疑問に思う。泣く子も黙る暁のアジトでこんなにも美味しそうな匂いが漂うのは少しおかしいのではないか、と。
「ああ…言いたいことは分かる。こうなったのはリーダーのせいだ」
ため息を吐きながら遠い目をする。どうやらリーダーには強者揃いの犯罪者を服従させるほどの器があるとみた。
広間の扉の前で兄さんが足を止める。私も足を止めた。
「これから大変だとは思うが、お前ならやっていける筈だ」
「はい」
「…ありがとう、なまえ」
兄さんが優しく微笑む。理由はきっと…私が彼を嫌いにならなかったから。そんなこと当たり前だ。こんな優しくて素敵な兄を嫌う妹がどこにいると言うのか。
兄さんの微笑みを脳に焼き付けていると広間の扉が開かれた。
「来たななまえ!ここ座れよ!」
デイダラが無邪気な笑みを浮かべながら自身の隣の椅子を指差す。今すぐにでも駆けていって座りたいが、もう片方の隣には飛段が座っている。…どうするべきか。私はチラリと兄さんを見る。
「飛段、俺と席交代だ」
「はぁ?何言ってんだよイタチ」
「お前が隣だとウチのなまえが嫌がるんだ」
「兄さん、私は別に嫌がってないよ?」
「イタチに比べてやっさしーななまえちゃんはよぉ…」
「ただ、拒絶反応が出るだけだから」
「だ、そうだ。退け飛段」
「ひでぇななまえ…だが俺は意地でも退かねー」
「そうか。…では俺がここに座ろう」
そう言って座ろうとする兄さん。しかし、デイダラの大声により椅子に座るのを一時中断された。
「なんでお前が座るんだよ!うん!」
「俺では不満か」
「不満も何も、」
「ぎゃーぎゃーうるせぇ」
誰かがドスの効いた声でデイダラの言葉を遮る。その声の主はサソリさんだった。サソリさんは兄さんが座ろうとしていた椅子に赤髪を揺らしながら荒々しく座る。
「なまえは俺が座ってた席に座れ。イタチはその隣だ」
ギロリと睨みながら吐き捨てるように言った。相当、機嫌が悪いようだ。これからこの人は怒らせないようにしよう。そう心に決めた時だった。
「おや、イタチさんと一緒だったんですね」
一言では外見を説明しづらい人が料理が盛られた皿をテーブルに並べながら私に笑いかけた。この人は霧隠れの抜け忍…。
「あなたは忍刀七人衆の…」
「私を知っているとは嬉しいですね。干柿鬼鮫です」
「よろしくお願いします鬼鮫さん。お手伝い、させてください」
「ありがとうございます。あっちにまだ皿があるので持ってきてもらえますか」
鬼鮫さんが料理を作っているのか。意外すぎる。まぁ、他に誰かが作っていたとしても意外なのだが。
両手に皿を持ち、テーブルに並べる。盛られている料理はとても美味しそうでつまみ食いしてしまいたいくらいだ。
「あっ、てめえ!オイラんとこにグリンピース入れるんじゃねぇ!」
「こんなもの食いもんじゃねーからデイダラちゃんにやる」
「ふざけんなドM野郎」
「おいガキ共、俺を真ん中にして騒ぐな」
やりとりを見ていて思わず顔が綻んだ。大丈夫。私はここでやっていける。
(110816)
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