本を読んでいるとトビが後ろから覆い被さるように抱きついてきた。先程からずっと何も言わない。名前を呼んでも全く反応しない。
「そろそろ離れてよ」
ため息を吐きながら言えば、抱きしめる腕に力が入った。
どうすればいいのか分からなくて、とりあえず頭を撫でた。
「…先輩」
「なに?」
上を見上げてトビの仮面と向き合う。彼が今、仮面の向こうでどのような顔をしているか分からないが何だか不安そうにしているような気がした。
「キス、してもいいですか」
仮面を横にずらしながらゆっくりと言った。唇は小さく震えていて、私を抱きしめている腕も小刻みに震えていた。
「急にどうしたの」
「先輩が好きなのは僕なんですよね?トビ、なんですよね?」
答えようと口を開いた。しかし、言葉が出なかった。目の前には口元だけ晒されたトビの顔。そして唇に感じる少し濡れた暖かい温度。
「僕がどんな男でも好きでいてくれますか」
彼が唇を離しながら言う。
私は頷くことしか出来なかった。
(110808)