「先輩先輩先輩!聞いてくださいよ!さっきデイダラ先輩、僕に何て言ったと思います?童貞ですよ童貞!酷いですよねデイダラ先輩も童貞なのに…人のこと言えてないっスよあの人!ちなみにアレですか先輩は処女だったりします?」

目の前のぐるぐる仮面男を殴りたい衝動に駆られた。だがここはぐっと我慢だ。反応してしまえばコイツは喜ぶ。思う壺だ。

「へえートビって童貞なんだ」

「あっ!僕のこと気になっちゃいました?どんどん聞いてくれても良いんですよ大歓迎です!ああ、でも仮面の下はシークレットっスからね」

「剥いでも変化とかしてて結局は意味無いんでしょ」

「おお。当たりっス。先輩好みの顔にしましょうか?」

「遠慮しとく。そういえば歳いくつ?」

「先輩よりかは…歳上ですね」

冗談で言っているのか真面目で言っているのか分からない。もし歳上なのだとしたら何故、私に敬語を使うのだろうか。

「あはは!先輩の考えてる顔、僕が今まで見てきた顔の中で一番面白いっスよ!」

「…嘘臭いんだよね、トビって」

前々から思っていた。
少し不自然だと。
どこがどう不自然なのかは全く分からないが、いま自分の目の前にいる男はトビで間違いないのだろうか。

「嘘臭いは失礼ですね先輩。僕の存在を全否定してるもんじゃないスか……急に怖い顔してどうしました?」

「本当にあなたはトビなのかなって思って」

「さては…僕の真実が知りたいんですか?」

「微妙」

「その内、分かりますよ。僕は我慢強い奴じゃないんで」

仮面を少しずらしてトビは口元を晒す。怖い程に私好みの口元だ。もしかしてこれは変化なのだろうか。だとしたら何だか虚しい。
にやり、と彼の唇が弧を描いた。

「先輩好みでしょ?…この口でいつか口説いてやるからな」

ゆっくり近付いて私の頬にキスをする。私はただ呆然としていた。
トビは仮面を元に戻し、軽い足取りで二人組を組んでいるデイダラの方へと歩いていく。

一体誰なんだあいつは。
まだ熱が残る頬を手で押さえながらその場にしゃがみこんだ。心臓が鳴り止まない。


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