※白雪姫パロ




祖母が俺の結婚のことばかりを気にしている。二言目には嫁はまだか、孫の顔がみたい。いい加減ブチ切れそうだ。確かに次の王の継承権は俺にある。妃を娶らないと国民に示しがつかない。そんなもの百も承知だ。

「なんだ、サソリの旦那。まだ結婚してないのか、うん」

隣国の有名な芸術家であるデイダラ。今日は久々に己の本業を楽しむ日だ。刺激を与え合うこいつと創作活動をするのが今の一番の楽しみになっている。いっそ王なんてやめて造形師になろうと幾度も考えたが、俺一人のせいで国を潰すわけにもいかない。運命とは残酷なものだ。

「まだとはなんだ。俺はしたくない」

「そうやって先延ばしにしてると後悔するぞ、旦那」

薄く笑い、手にしている粘土の形を滑らかな指の動きで変えていく。
…後悔、か。この先結婚せずに後悔するのか、結婚して後悔をするのか。どちらにせよ、うまくいかない気がする。男女の仲に捕らわれることのないデイダラをほんの少しだけ、羨ましいと思った。



随分と奥まったところへ来てしまった。
馬を走らせ半刻が経つ。ここは自国と隣国の境にある森だ。木漏れ日が光り輝きながら辺りを照らしている。ふと足元を見れば小さな足跡があった。ああ、ここは小人の縄張りか。あいつらは人と相容れないところがある。見つかれば厄介だ。早々に立ち去ることにしよう。と引き返そうとしていたとき、すすり泣く声が聞こえた。

「なんだ…?」

家来が引き止める声を無視し、泣き声に呼ばれるように馬を走らせた。後ろから家来の声がかかる。

「王子お待ちください。これ以上先は危険です」

「俺が小人ごときにやられるか。お前も着いてこい」

そう言えば家来たちは渋々といったように後ろを着いてくる。それにしてもこんな森の奥で誰が泣いているんだ。やはり小人か?
進んで行くと開けた場所へ着いた。辺り一面、花々が咲いており風に揺れている。その真ん中に硝子ケースが置いてあり周りには小人が座り込んでいた。俺は馬から降り、彼らに近づく。

「おい、お前たち。何故泣いている」

「これはこれは、王子殿。わたくしたちの姫が王女に殺されてしまったのです」

鼻をすすりながら涙声で言った。そう言えば隣国の王女は気が触れているんじゃないかと疑うくらい不安定な女だ。この姫とやらはそいつの親族、もしくは娘といったところか。
硝子ケースの中で横たわっている少女を見る。顔を見た瞬間、今までに感じたことのない衝撃が体の中を駆け抜けた。
気付けば口を開いていた。

「死体でもいい。この姫を俺にくれないか」

後ろの方では家来たちが絶句している。
今まで膨大な数の女を見てきたが、こんな気持ちになったのは初めてだ。目を閉じ、少し血色のない肌がいやに生々しく目が離せない。
小人たちは二つ返事で快く硝子の棺桶を渡してくれた。老いぼれ7人のもとにいるより、王子である俺のところにいた方が姫も幸せだと言いながら。
家来たちに棺桶を持たせ、花畑を後にする。中で眠るように横たわる少女の顔ばかり見てしまう。見過ぎて手元が狂い、落馬しそうなくらいだ。
家来たちが心配そうにこれからどうするのかと聞いてきたが、自分でもわからない。死体が欲しいだなんてどうかしている。祖母にどう報告しようかと考えていたときだった。棺桶を背負っていた馬がぬかるみに足を滑らせバランスを崩した。その拍子で棺桶が揺れ、中の姫も揺れた。すると口から赤いものがポロリと出た。瞬間、姫の瞼がぱちりと開かれる。

「あなたは?」

棺桶の硝子を自らの手で押しのけ、俺の顔を見て言葉を発した。どういうことだ。死んでいたんじゃないのか。

「俺は隣国の王子、サソリだ」

「王子…?私、物売りのお婆さんに林檎を食べさせられてそれから…。あの、ここは?」

状況を上手く頭で処理できていないのかキョロキョロと辺りを見回しては首を傾げる。とりあえずこれだけは聞いておこう。

「お前、婚約者は」

「いませんけど…」

決まりだな。やっと祖母の小言を聞かずに済む。俺の国も安泰だ。姫の手を取り、棺桶の中から自分の馬へと移動させる。自身の前に座らせ、髪を撫でた。

「このまま俺の国へ連れていく。明日には挙式を上げる」

「えっ?ま、待ってください、なんで私が」

「俺が決めた。全てが終わってから悩め。無論、悩ませることはさせないが」

いいじゃねーか。妻が元死体だなんて最高だ。


(150715)
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