暁に所属している天才傀儡造形師はどうやら毒の調合が好きらしい。加えて様々な薬を開発しては量産しているようだ。

「いつ見ても凄いなぁ」

「あんま触んなよ。命の保証はないぜ?」

後ろの方で新しい薬を開発しているサソリが緊張感のない声を出す。私はずらりと多くの液体の入った瓶が置いてある棚から気になった瓶を取り出した。
何気なく手に取った瓶のラベルには矢印マークが下を示している。興味が湧いて蓋を開けてにおいを嗅いでみたが無臭だった。

「サソリ、これどういう薬…あっ」

「あぁ?…っこの馬鹿!」

後ろを振り返り、サソリの元へと行こうとした瞬間。

躓いた。

躓いた拍子に私の手から瓶が離れる。瓶が向かう先にはサソリ。薬の調合でとっさに動けなかった彼は頭から瓶の液体をかぶってしまった。
ぼん、という間抜けな音と同時に白い煙が立ち込める。無事だろうか。

「サソリー大丈夫?」

返事はない。代わりに咳き込む音が聞こえた。無事だと安心して煙が消えていくのを待つ。

「おねえさん、だれ?」

サソリがいるであろう場所にぶかぶかの暁のコートに身を包んだ赤毛の子どもがいた。
すごく、可愛い。

「どうしたの?」

私が何も言わないのを不思議に思ったのか、丸くて大きな目を瞬かせながら首を傾げる。
手がわきわきと動きそうになるのを必死で堪えて赤毛の子どもに笑いかける。

「あなた、名前は?」

「ぼく、サソリ」

目眩がした。まさかとは思っていたが…そのまさかだ。あの薬は若返りの効果があるらしい。しかも記憶まで若返るとは…この際、サソリのあの歪んだ性格を直してやろうか。リーダー達には後で報告しよう。

「ねぇ、サソリ。私と遊ぼうか」

「いいの!?」

サソリの表情が輝きだす。
襲ってもいいかなこれ。




「ああもう、可愛いいいい!」

楽しそうに傀儡を造る姿に思わず抱きつく。何この子、可愛すぎる。

「んっ…おねえさん、くすぐったいよっ…!」

サソリが身を捩る。その姿でさえ可愛らしい。我慢できなくなって抱き上げると、私に擦り寄ってきた。ふわふわの赤毛が頬に当たってくすぐったい。ちなみに服はぶかぶかのコートのままだ。

「おねえさん良い匂いがする」

「そう?さっき鬼鮫の作ってくれたご飯食べたから、その匂いかな」

確か玉子焼きとワカメ味噌汁とご飯だった気がする。とても美味しかった。
体を擦り寄せていたサソリが思い出したように顔を上げた。

「ぼくね、ちょっとやってみたいことがあるんだ!」

「なに?下ろそうか?」

「ううん、このままでいい。うごかないでね」

腕の中でもぞもぞと動く。
ニコニコしながら私と顔の位置を合わせた。そして顔を近付けてくる。
これは…もしかしなくとも…。

互いの唇が軽く触れあった途端、ぼんっという音と煙が現れた。ずしり、と腕の中のサソリが重くなる。

「…下ろせ」

「えっえええ!!もう終わり!?幼少期サソリもう終わりなの!?」

「うるせぇ。さっさと下ろせ」

これから色々してやろうと思ったのだが。勿論、教育的な意味でだ。
元に戻ったサソリを下ろす。すると彼は深いため息を吐いた。

「我ながら情けないぜ。てめぇに抱かれるわ、キスはしちまうわ…」

「まさか、さっきまでの記憶あるの?」

「ああ。俺をニヤニヤしながら見てたお前の顔までちゃんと覚えてる」

次はサソリがニヤリと笑みを浮かべる番だ。じりじりと近付いてくる、さっきまで幼児だった彼。遂に壁に追いやられて逃げ場を失った。

「ガキん時の俺のキスより、今のが良いだろ?」

「ははは、何をおっしゃっているのかさっぱり分かりませんね」

サソリが壁に手を付く。
ゆっくりと近付いてくる顔。拒否しようにもできない。

「そういやぁ、気付いたか?あの薬の効果を元に戻すには」


運命の相手とキスするんだぜ。


彼がそう言った次の瞬間、
私の口から酸素が奪われた。

今回、分かったこと。
サソリは案外ロマンチストということ。似合わなさすぎて苦笑ものだ。



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