恋愛がすきだ。だって、ドラマや少女漫画で見る恋はどれもキラキラとしていて、恋する女の子はいつだって可愛い。私もそんな風になれたら、と憧れた。だから、沢山恋をした。だって、恋愛というのは楽しいものだから。楽しいことはないよりもきっとあった方がいい。いつしかそんなことを言ったら、仁王に「お前さんはまだちゃんと気付けておらんの。」と呆れたように言われた。うるさいな。

 気が付けばいつの間にかいつも傍にいた気がする。元より親同士が仲が良くて、自然と子供であるわたしとブン太も仲良くなった。そして彼は昔から女子に人気があったように思うし、甘いものが好きということでこの季節にはよくチョコレートを貰っていた。わたしが彼に渡すように女子から頼まれたことも数少なくはない。
 ドロリと溶けだしたチョコレートの甘い匂いが鼻をつんと刺激する。本を片手に、次の工程を読み上げた。「つぎは、ココアパウダーをつけて丸めます…?」先程から何度も何度も失敗してはやり直して、この作業は一体何回目だろうか。甘い香りが失敗してばかりの私を笑う。
 毎年バレンタインデーには料理が下手くそな私は市販のものを渡していた。無論今年もテニス部のみんなには市販のチョコレートを渡した。これで一件落着、の筈だったのに。溶けたチョコレートを混ぜては溜息を吐いた。

「ふうん。舞菜、チョコレートなんか作ってんの。」

 声のする方を見ればリビングによりにもよって一番見られたくなかった幼馴染の姿があった。「ぶ、ブンちゃん。」どうしているのか聞けば、何ともない風に「おばさんに入れてもらったー。」と家のお菓子を口にしながら答えた。うちのお母さんはつくづくブン太に甘い。

「にしても舞菜が手作りとはねえ。」
「べ、べつにー!いいじゃん。」
「俺が作ってやろーか。」

 視線が絡み合う。そういえばブン太が私を見る目は、昔からちっとも変わっていない。ううん、と唸る。ブン太は不思議そうな表情を浮かべた。違う、ブン太に作ってもらうんじゃ、意味がない。きっとお菓子作りが得意な彼が作った方が美味しいものが作れる。だけどそれでは駄目だ。

「わたしが、作りたいと思ったんだもん。」

 仁王の言葉が木霊する。「お前さんはまだちゃんと気付けておらんのう。」恋がしたい。ドラマや雑誌で見るそれは輝いていて、私にもあのキラキラがほしい。きっとそれは甘くて、私がまだ体験したことのないくらい幸福なのだろう。それでもいつも間違ってばかりで、そういえば失敗するたびにブン太は叱りながらも傍にいてくれた気がする。

「わたしがブン太に、作りたいって、思ったんだ。」

 お皿の上に転がったチョコレートをブン太は一つつまんだ。口にしてから、それから一言、「しょっぱい。」と笑った。「どうやったらこんなまずく作れんだよ。」「わ、わたしが頑張ってつくったのに!」

「ほんっと、こんなの俺しか食えねえよ。」

 ブン太が私を見る目は、いつだって優しかった。気付いてからじゃ、もう遅いのかな。
 お皿の上に転がったチョコレートを口にする。それは随分と形が悪くて、ブン太の言った通り、しょっぱかった。恋愛はただ甘いものだと思っていたのだけれど、もしかしたらそれだけじゃないのかもしれない。もしかしたら、なんて考えが頭を過ぎったけれど、すぐさま打ち消した。「舞菜。」私が本物の恋に気付くまでは、まだ。
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