どうせ毎年一緒にいるからついでに、と毎年バレンタインにはチョコレートをあげていた。去年は海外の有名らしいトリュフ、一昨年は駅前の美味しいチョコレートケーキ。今年も当然の如くどこで買おうかなんて考えていた矢先に、藍菜ちゃんから手作りしましょう!と腕を引かれたのが先程のこと。調理室に着くと、恥ずかしそうに俯く水鳥とにこにこ笑うちゆりちゃん、雨由先輩がいた。

「あ、秋姫ちゃんもっと優しくやらなきゃ駄目だよ。」
水鳥に言われてから自分の手元を見てみるとブラウニーの生地が飛び散っていた。普段料理は慣れているというのに、あたしはどうもお菓子作りなどの細かい作業に向いていない。慣れない作業をして、ラッピングをどれにしようか迷って、下手したら買った方が安いかもしれなくて、この面倒さがバレンタインは、どうしてもあげる相手のことを考えさせてくる。一口食べたら、どんな顔を浮かべるのだろう。そんなことを思い浮かべては、慌ててかき消した。

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「そういうわけで、皆ハッピーバレンタイン。」
「アラアラ、秋姫ちゃん作ったの?びっくりねぇ。」
「成り行きで…。やっぱりKnightsの皆にはお世話になってるしね。」
「姫お姉さまのhandmadeですね!」
「そ、そんな大したものじゃないから…。」
「うわ、何コレ。小石?」
「ぶ、ブラウニー!瀬名先輩、わざと意地悪言ってます?」
「う、うーん。中々にUniqueなお味です…。」
「おお!面白い味だな!想像もつかないこの感じ、嫌いじゃないぞ。」
「み、みんなひどい!」
「あれ、くまくんのだけ皆と形違くない?」
「そ、それは。」
「…?桃?」
「んもう、凛月ちゃんったら!そこはハート型でしょう?ラブのハート!」
「ラブじゃないけど!ま、まあ長年の付き合いだからってことで…。」

凛月はあたしのブラウニーを掲げながら、にやりとあたしの顔と見比べる。その表情にいてもたってもいられなくなったので、「真緒にもハートだからね。」と釘をさすと凛月は「えー、秋姫のわからず屋。」と文句をたれた。
あたしはやっぱりお菓子作りみたいな手先の細かい作業は苦手だし、Knightsの皆の方が上手く作れるだろうからあげるのも迷ったのだけど、文句を言いながらも全部食べてくれる皆を見て、手作りにして良かった、と小さく笑った。

「ふうーん。ハートねえ。」
「うるさいな凛月、早く食べちゃってよ。」
「はぁーい。」
「凛月のお菓子の方がずっとおいしいけどね。」
「お菓子作りっていうのは、誰かを思ってすることだからねえ。喜んでいただくよ。」
「…あっそ。」
「本当は秋姫がいいんだけどね。」
「そ、それはだめ。」

きみはチョコレートの匂いがする




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