「秋姫ちゃんも、いつまで凛月ちゃんと追いかけっこ続けてるつもり。」
それまでは何てことないお喋りを楽しんでいたものだから、突然の嵐ちゃんの核心をついた言葉に、手からティーカップがガシャンと音を発てて落ちた。あらあら、ごめんなさいねえと嵐ちゃんは困ったように笑いながら零れた紅茶を拭く。紅茶を淹れてくれた創くんにごめんね、と言うと、「いえ、また淹れれば良いだけですから。」と優しく笑ってくれた。

「…ど、どういうことよ。」
慌てて平然を装って聞くも、「そのままの意味よっ。」と何でもお見通しかのように嵐ちゃんは答えた。
「秋姫ちゃんも、口だけで良いから凛月ちゃんに言っちゃえばいいじゃない。私はあなたのものよって。」
「そんな、あなたのものって…。」
「アタシとか周りにも分かるくらいなんだから、秋姫ちゃんはとっくに分かってるんでしょう?」
普段見ない振りをしていたことを御構い無しに蓋を開けていくものだから、あたしは圧倒されるばかりだ。創くんに助けを求めようと視線で送るも、彼も困ったように笑うだけだ。
「このままジリジリとした関係だと、凛月ちゃんも堪ったもんじゃないわよ。」
ジリジリ、か。目を瞑って暗闇に光る紅い瞳を反芻した。何処にいても、隠れても、逃げられやしない。焦がれて、燃え尽きてしまいそうだ。紅茶に口をつけるとふわりとダージリンの優しい香りが心をやっと落ち着かせてくれた。自分でももうとっくのとうに気付いている。彼はもうすっかり弟なんかじゃないし、あたしのことを欲しいと思っていることも、あたしもそれを満更でもなく思っていることも。

「分かってるけど。」
嵐ちゃんはやっと喋ったあたしににやりと笑ってから、「けど?」と追い討ちをかける。
「それを言ったら、本当にどうにかなっちゃいそうで…。」
俯いたあたしに、小学生じゃないんだから、と笑った後、「まあ分かるけどねえ。」と優しく頭を撫でてくれた。自分でも変な意地を張っていることはもう承知している。別に今更恥ずかしいとかではないし、否少しは恥ずかしいけど、それだけじゃない。きっと、怖いのだ。凛月があたしを追いかけているのは所謂ただのゲームで、捕まえた瞬間飽きて捨てられてしまうかもしれない。何を怖がっているんだと思われるかもしれないけれど、彼はそういう男だ。飽きっぽくて本気になった方が負ける。それならば、いつまでも捕まらないままの自分であたしは居たい。そして、本当に彼はあたしの全てを貪り尽くしてしまいそうなのだ。

「あたしは、まだ色々やりたいこともあるし。凛月だけのあたしじゃないもの。」
「真面目ねえ。もう、秋姫ちゃんったらしっかりしてるように見えて、こういうところではポンコツだもの。」
茶菓子に手を伸ばした嵐ちゃんは悪戯っぽく笑って言った。此方は一応、お姉さんキャラでやってるんですけど、と文句を言えば、アタシの前で言える?と返されて、ぐうの音も出ない。

「あんまりぼんやりしていると、秋姫ちゃん、変なヒトに攫われちゃうわよォ」
「あたしが?」
「そ。例えばアタシとかにね?」
自分が凛月じゃない他の誰かに奪われるだなんて想像もしていなかったから、一瞬狼狽えてしまう。ウインクをする嵐ちゃんはいつもの調子だから、余計分からない。
ちょうどその時、凛月が不機嫌そうにあたし達の前に来た。「アラアラ、騎士様の登場ねぇ。」凛月は騎士という柄ではないような、とぼんやり考えていたら、凛月は「秋姫、盗品隠しに行くから来て。」と無理やりあたしの手を掴んだ。今週はミステリーステージの真っ最中で、今日の盗品を隠すのは凛月の担当だったか。創くんに慌ててお茶のお礼を言って、凛月に手を引かれるがままに着いて行く。去り際に嵐ちゃんを見ると、お見通しよ、とでも言うようににんまりと笑みを浮かべていた。

「秋姫は何で俺だけのものじゃないのかな。」
手を引きながら不満げに凛月が言う。手を引かれながら、あたしは凛月の言葉の意味についてぼんやりと考えていた。やきもち、と言うには少し背伸びをしている。実際少しはあるのかもしれないけれど、彼のこの感情はお気に入りのおもちゃを取り返す、といったもっと子供のようなものに近いような気もした。

「あたしは、あたしだから。凛月一人のものにはなれないよ。」
口だけでも言ってあげればいいじゃない。嵐ちゃんの言葉が反芻する。それを認めてしまうのが最後、彼は古びたおもちゃには興味がないから、到底口に出すことなど出来なかった。彼の中で光る一番星であり続けたい。それでもずっと手を引かれたままのあたしは、本当は、もうとっくのとうにあたしは凛月のものなのだけれど。



一番星窃盗容疑




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -