クリスマスというのはいかに自分が女の子だったのかということを思い知らされてしまう。煌めく街の電飾に高鳴る胸を無理やり抑えつけた。サンタ帽を被っておいてそれはないか。

「お、秋姫。似合ってるな。」
月永先輩はあたしの被っているサンタ帽を指差して満足げに笑った。学院のイベントだとかで無理やり被せられたのだ。
「水鳥なら図書室ですよ〜。」
サンタ帽を脱ぎながら言うと、彼はそれが聞きたかったのだとばかりに笑った。水鳥には先程ハンドクリームとお揃いのペンをあげてきたのだ。「では行くとするか!」くるりの背を向けて、最後に思い出したように「秋姫、メリークリスマス、アンド、ハッピーバスデイ。」良い日になるといいな、と我らが王様は笑う。良い日、か。期待するだけ無駄だと思っても、どこかで捨て切れていないのだ。

**

息を吐けば、もうすっかり冬の息だ。芯から冷えた指先に息を吹きかけ温める。彼とこうして外で待ち合わせをするのはどれくらいぶりだろうか。毎日学校で会うし、家も近いし、おまけに凛月は根っからのインドアだからどこかに出掛けて待ち合わせをするというのはすごく久しぶりな気がした。
腕時計を見ると、約束の時間からもう50分ほど経っている。予想は的中。やはり期待するだけ無駄なのだと溜息を吐いた。長年の付き合いからそれは分かっている筈なのに、期待をどうしても捨てきれないのはクリスマスのせいなのか、誕生日のせいなのか。

出掛けようと言ったのは、珍しく凛月からだった。彼が指定した待ち合わせ場所はよりにもよって、カップルが多いイルミネーションスポットで、そこでぼんやり一人待ちぼうけのあたしは、何だか馬鹿みたいだ。
これだけ待っているのも馬鹿らしいな、と帰ろうとすると肩を叩かれた。凛月、思わず名前を声に出して振り返るも、叩いた人は知らない人だ。「お姉さん、一人?」こんな日にナンパもいるのか。

「人を待ってるから。」
「さっきからずっとそこで一人だったじゃん。」
妙な馴れ馴れしさに腹を立てながらも、実際にそれは正解だったから、しっかりと傷ついている自分がいる。よりにもよって、こんな日に。
言い返そうと顔を見上げると、ふと見慣れた背中が目の前に現れた。昔はあたしの方が高かったのに、今では見上げなきゃ顔も見えない。凛月は振り返って、不機嫌そうに聞いた。「…だれこれ。」遅れてきたくせに、何で凛月が不機嫌そうなんだ。

「誰か知らないけど。秋姫は俺のだからね〜。」

歌うように笑ってから、凛月はあたしの手を引いた。もうずっと小さい頃から知っているし、今更手を握られても何も思わないけれど、それでもどこかで緊張していた。「どこ、いくの。」キラキラの照明の中、凛月はあたしの手を引いてずんずんと進んでいく。光が流れていくようだ。「こんなところ来て、どうして。」いつもあたしが彼の手を引いているとばかり思っていたのに、本当は逆だったのかもしれない。

「ねえ、あとそのすごい大きい包み、なに?」
急に凛月は立ち止まり、振り返る。気が付けば、大きなクリスマスツリーの前に立っていた。赤や金色の装飾がちらちらと目の前で光った。凛月はあたしの体の半分弱程ある大きな包みを抱えている。
「…秋姫ここに来たいって、雑誌のインタビューで答えてたでしょ。」
答えは随分と予想外のもので、すっかりと狼狽えてしまった。それはあたしもすっかり忘れているくらいの何気ない女子向けのクリスマス特集で適当に答えたものだったのだけど。「…あたしの雑誌なんて読んでたんだ。」「まあね。」

それから凛月は例の大きな包みをあたしの前に差し出した。赤色の綺麗な包装紙に金色のリボンがかかっている。それからふにゃりと昔みたいな笑顔で言った。「おめでと、秋姫。」
金色のリボンを解くと、正体は大きなテディベアだった。さすが長年の付き合いだけあって可愛いものに目がないあたしのことをよく分かっている。

「か、可愛い。」
「俺がいなくても寂しくないようにね。」
「本気で言ってる?」ふふん、と鼻を鳴らして満足げな凛月に笑いながら聞くと、彼は当然とでも言うように答えた。
「だって、秋姫俺がいない時に泣いてるでしょ?」
「…泣いてないよ。」
「泣かないの?」
「でも、あたしにこんな可愛いの、似合わないよ。」
「秋姫もかわいいと思うけど。」

冗談かと思って笑いながら顔を見たら、凛月はいたって真面目な顔だったからとうとう笑顔も作れなくなってしまった。とてもじゃないけど彼の顔を見れそうもなくて、腕の中のテディベアに顔をうずめた。瞼の裏に、クリスマスの光がちかちかと瞬いた。
今日の凛月はいつもと少し違う。もう見上げなきゃ顔も見えないこと、あたしより全然手が大きくなっていること、本当は弟なんかじゃないこと、もうとっくのとうに気付いていたけれど、今日は普段見えないふりをしていたことを随分と思い知らされる。凛月を見ると、昔と同じであたしを真っ直ぐと見て、大真面目に言った。

「秋姫は、かわいいよ。」

あたしはやっぱり赤く光るその目に弱い。期待したところで、今日みたいにまた待ちぼうけをくらうことは目に見えている。今日のことだって、どうせいつもの凛月の気まぐれだ。それでも彼の隣で小さく、女の子でよかった、と思ってしまった。


世界中に夢見る魔法をかけてみせてよ




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