たとえば小学校の遠足の前日の夜だとか、そういった感情に近かった。期待と、少しの不安、それでも楽しみという感情が勝る。久しぶりに訪れた家のドアを目の前にして、あたしは息を小さく吸い込んだ。

父親の転勤の都合で離れていたが、小学生ぶりにこの土地に帰ってきた。あの時は小学生だったあたしも、今はもう高校生だ。
新しい建物や、変わってしまっていたものも多くあったけれど、その家は記憶と全く変わらず、あの頃のままだった。そして、少し緊張した面持ちでインターフォンを押そうとしているあたしも、小学生の頃と何の変わりもない。表札には、松野、と書かれている。

「あれ?」

一向に勇気が出なくて、インターフォンを押せずにいたら、背後から声をかけられる。「ひゃ!」振り返ると、同じ顔が6つ不思議そうな表情であたしをうかがっていた。久しぶりだったのにも関わらず、相変わらずのみんなの顔に思わず昔と同じように声に出してしまった。「あ、みんな。」

「もしかして美桜?」
「うぇー!なつかし!」
口々に反応する彼らも昔と変わらなくて、心から安心する。それでも昔よりも大人びていた彼らの目の前に立つのは少し緊張した。

「みーお。あっ、俺はおそ松ね。」
「あっ、おそ松くん。」
「美桜、全然区別つかなかったからねえ。」
「ご、ごめん。」
「はは、高校は?たぶん俺らと同じだよね?」
「そうみたい。」
そうかあ、とおそ松くんは笑った。へにゃりと目尻を下げた、優しい表情だった。「じゃあ、これから楽しくなるな。」

恥ずかしながら、あたしは夢を少しだけ見ていたような気がする。幼馴染の6つ子の彼らは、小さな頃のあたしからしたらヒーローに見えた。そんな彼らとまた近所になれて、同じ高校に通えるだなんて、どこかの少女漫画みたいで、浮かれていたのだ。
それが、悪夢の始まりだとは高校生のあたしはちっとも考えていなかった。


▼▼

「あ、あれ!?ない…ない…。」
財布の隅から隅まで探してみても、昨日入っていたはずの1万円がない。葉瑠に聞いても違うと言うし、そもそも葉瑠は何故かお金に困ったことはないから彼ではない。だとすると――。

「やられた…。」
あいつらだ。浮かぶのは6つの同じ顔。あれからというと、あたしは6つ子に振り回されてばかりだ。お金はせびられるし、使い走りにされるし、やっとの思いで好きな人や彼氏が出来ても邪魔をされる。

あたしももう大学生になったものの、それは相変わらずだ。小さな頃は可愛かったものの、成人した彼らに可愛さの欠片もない。あたしの青春とは、一体。
溜息を吐く。それでも彼らを憎めないのは、きっと胸の奥にいつまでも燻った思い出を捨てきれないでいるからだ。いい歳して働かずに、何かと青春を邪魔されてばかりの彼らだけれど、悔しいことにあの日と変わらない懐かしい匂いがする。玄関から昔と変わらない声で呼ばれた。あの日、あたしは誰を好きだったのだっけか。


「みーおーちゃん。あそびーましょー。」














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