そりゃああたしだって本当はもっと笑うし、話すことも出来る。自分で言うのもおかしいと も思うけれども、それなりに明るいし友達だって沢山いる。男子が特別苦手、というわけで もない。サッカー部員の皆とも仲良く話せているし、皆いい友達で仲間だ。だけども、どうしてあの人の前では。

「悪い、タオルくれる?」
声を聞いただけで、もう駄目だ。あたしの心臓は驚くほどに跳ねてどこかにいってしまったみたい。振り返ると、顔中に一気に熱がいくのを感じた。

「は、半田。」しまった。名前を呼んでどうする。目の前の半田はあたしの緊張が移ったみたいで、「お、 おう。」とか返事をした。ぎこちない二人。何をしているんだ。昨日の夜も何度も何度も シュミレーションをした筈なのに、あたしは彼の前ではどうしようもなく立ち尽くすのみ だった。本当はもっと、あたしだって話せるし笑えるのに。半田の前ではいつもあたしはた だの無愛想な女の子だ。

「タ、タオル、使えば。」
口をついて出る言葉は、可愛らしさの欠片もなかった。無愛想な上に、口も悪い。最悪だ。 半田はおずおずとタオルを受け取って、「あー、ありがとな。」と申し訳なさそうに答えた。やってしまった。完全にびびられた。本当はあたしだって、可愛らしくタオルを渡すこ とぐらい出来るはずなのに。半田の前だとどうして。


「…んじゃあ、サンキュ、な。」
去り行く背中に、思わず声をあげて掴んだ。私が咄嗟に掴んだそれが半田のユニフォームであることに気付くには時間はあまりかからなかった。
彼は驚いてあたしを見る。だけどもそれ以上に驚いたのは自分だ。

「あ、れ。何でだろ。ごめん、思わず掴んじゃって。あの、意味はない、んだけど」
「う、うん。」
「意味、ないの。だけど、あの…ううん。何で、あたし。」
「間宮。」

名前を呼ばれて、ごちゃごちゃに混乱していた思考が一気にまとまった気がした。
半田の前ではどうしても何もかもが上手くいかなくって、空回りしてしまう理由も、あんなに練習したのに、どうして上手く喋れないのか。こんなの、一つしか答えがないじゃないか。


「あ、あたし…半田のサッカー、みてるからね。」
「…うん。ありがと。すごい、嬉しい。」

それからも、サッカーをする彼の姿はあたしの中で一番だったのです。何で半田なの、とか よく聞かれるけれども、そんな理由なんてない。
ただ、彼の横にいるといつも胸が苦しくなるし、いつだって一番心に刻まれるのは彼のサッカーなのだ。
明日はちゃんと、半田の前で 笑えますように。やっぱり、彼の前ではどうしてもあたしはただの恋する女の子だ。

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