「沙雨ちゃんは、本当に楽しそうにサッカーするよね。」
あたしがそう言うと、沙雨ちゃんは少し照れたようにして笑う。それは誰もを安心させてくれて、いつでも笑っていて、そう願わざるをえなくさせるような類のものだ。「だっ、て。楽しいです、とっても!」

前に、彼女は怪我をしてサッカーを諦めていたと聞いたことがある。彼女曰く、死に場所を探していた、と。今の彼女からは全くもって想像出来ない過去だった。
そんな彼女がもう一度サッカーをやろう、決めさせたのは鬼道の言葉だそうだ。鬼道と同じフィールドに立って一緒にサッカーをしたい。それを聞いたとき、あたしは思わず納得してしまったのだ。だって聞いただけで、分かってしまった。沙雨ちゃんが鬼道を羨望を孕んだ瞳で眩しそうに見る訳も、鬼道が沙雨ちゃんをいつも心配そうに見て、だけども酷く優しい表情をしている訳も。そうか、二人は互いに救われているんだ。

「…それは、鬼道とサッカーができる、から?」

そう聞くと沙雨ちゃんは真っ赤になって「え、え!?」と慌てだした。可愛いなあ。それから暫く考えて、心臓の辺りを確かめるようにしてぎゅっと掴み答える。「そ、うですね…。」鬼道を見る彼女は、いつもより小さく頼りなく、だけども何よりも強く貴く見えた。

「サッカーは、元から大好きです、し。すごく、楽しいです。…だけど、」
「うん。」
「有人さんと一緒にするサッカーは、もっと、もっと、楽しい。本当に、こんな幸せって、ないなあって」
「…そっか。」
「まだよく、分かりたくないんです。だけど俺、有人さんとするサッカーは好き、です。きっと、だいすき」

気が付けば、沙雨ちゃんは目にいっぱい涙を溜めていた。だけどもサッカーをする鬼道をじっと、泣きそうになりながらも、見続けていた。それは彼女の小さな身体に鬼道を精一杯焼き付けているようにしているようで、どこかで覚えがあるなと考えたら、ああそうだ。あたしも同じようにして半田を見ていたんだった。
「有人さん。」堪らずそう声に出して彼の名前を呟く沙雨ちゃんは、誰よりも可愛かった。いつか、半田が言っていたことを思い出す。そうだ、恋する女の子はキラキラしている。

「沙雨ちゃん。」
「俺…わ、からなくて。分かりたく、ないんです。きっと、まだ。」
怖いんです。そう小さく肩を震わせる沙雨ちゃんの背中を撫でる。「うん、分かるよ」きっと、鬼道も、沙雨ちゃんのこの小さな肩に、白い頬に、触れたいと思っているのだろうか。そんなことをぼんやりと考えていた。

ふと視線を移すと、鬼道がこちらを見ている。やっぱり、鬼道はいつだって沙雨ちゃんが気になって仕方がないんだ。愛されてるなあ。
「沙雨ちゃん、多分そろそろ鬼道こっちくるよ。」あたしがそう言うと、沙雨ちゃんは慌てて涙を拭いた。
「えっ、ど、うしよう。俺、目、赤いし。鼻も、えっと、あの」
「大丈夫大丈夫!」
鬼道といる沙雨ちゃんは、誰よりも可愛いからね。
そう言うと、沙雨ちゃんはよく分からないといった風にして、少し顔を赤らめて戸惑ってみせた。鬼道を見ると、こっちに向かってきている。やっぱりね。
「沙雨ちゃんは、大丈夫だよ」念押ししてもう一度そう言って離れると、慌てたようにして後ろから「み、美桜さんもすごく可愛いです!」と声がした。沙雨ちゃんがそんなこと言うから、あたしも半田の隣で沙雨ちゃんのように可愛くなれていたら、と思ってしまった。ばかみたいだ。だけども、そうだと、いいな。

振り返ると、沙雨ちゃんと鬼道は優しい顔して笑っていた。二人は何だか似ている。こんなこと言っても、沙雨ちゃんはきっと分からないだろうな。
鬼道の隣にいる沙雨ちゃんは、やっぱりあの可愛い笑顔を浮かべている。何だか勇気を貰った気がする。恋する女の子はきっと強いのだ。あたしは二人を見てから、半田の元へと脚を運んだ。「半田。」呟けばいつだって胸が破けそうになった。彼の隣で、少しでも可愛い女の子になれたら、いい。



inzm/沙雨ちゃん(央たん宅) 美桜 鬼道
沙雨ちゃんお借りしました

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -